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「ムリだよ。いっちゃん。もう遅い。椎菜……ひとりだけの問題じゃない。いっちゃんだよ。いっちゃん自身が全ての要になってる。もう……」
樹は静かに徹を見つめる。
彼の顔に浮かぶ感情を、冷静に見極める。
悔しそうに唇を噛み締めながら、徹は涙を滲ませた。
「鷹城が崩れるよ。内側から、あの女狐に喰われてゆく」
「とっくに予測済み」
樹は答えた。
そんなこと、とうの昔に感づいていた。
曾祖母である鷹城椿が病に倒れた一年前から、内部分裂の兆候はあった。
けれど、それが無関係なヒナにまで危険が及ぶなんて、誰も予想していなかった。
ヒナを守れなかった。
それは、明らかに自分のミス。
樹は奥歯を噛みしめた。
相手の目的を知る必要があったから、樹はあえて徹を泳がせた。
それが、完全に裏目に出てしまった。
まさか、それを指示した敵の目的が、樹本人ではなく、自分からヒナを引き離すことのみだったなんて。
そんな感情論的な愚にも付かないことを、あの女が指示するとは、予想外すぎて意識から外してしまっていた。
これは樹のミスだった。
「そうだね。女狐の動きなんて、総兄はとっくに気付いてた。そして、鷹城のしがらみごと全てを切り捨てたんだ」
徹の言う通り、鷹城コンツェルンごと己に刃向かう全てを、父・総一郎は、いっそ清々しいまでに切り捨てた。
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