狙われたヒナ

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『まだ目ぇ覚まさねえの?』 『もう寝たまんまでもいいんじゃねえ? ヤるだけだろ?』 『ああ、受けた指示はそれだけだな』 『……もう待てねえよ』 『ガキみたいな顔してるくせに、結構イイカラダしてやがるしな、この女』  複数の男の声。瞼を下ろしているので、姿は見えない。けれど、自分の身体全体に、ねばつくような視線を感じる。  ドッと上がる下卑た笑い。それは、不快な音としてヒナの耳に届く。  不安で胸が押しつぶされそうになる。  極度の緊張に高鳴る胸の鼓動が彼らに気付かれやしないかとヒヤリとする。  息を殺し、ヒナは交わされる会話を音として聞きながら、後ろ手に握りしめた小型ナイフを鞘から引き抜く。  壁を背にナイフを隠しながらゆっくりと、腕を拘束する縄を静かに切ってゆく。  足は動かせる。あと少しで縄は切れそうだ。  切れた後は、男達がここから出て行った時、さっき見たあの窓から逃げ出せばいい。  そう思った時。  近付いてくる男の手が、突然ヒナの肩を掴み挙げた。  思わず目を見開いてしまう。 『おい、目、覚ましてるぜ。この女』 『でも言葉わかんないんだろ』 『理解できてない割りに、ビビって震えてやがるけどな』  また笑い声が上がる。  狭い部屋に入ってきた男達を、ヒナは絶望の眼差しで見渡した。
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