狙われたヒナ

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 ――――そんな……5人もいる……。  このまま彼らを振り切って、独りで逃げきることなんて出来るだろうか。  ゾッと血の気が引く。  絶望的な答えしか出てこない。 『一番手はオレだから』  ヒナの肩を掴んだ男は、ニヤリと野卑な笑みを浮かべた。  飛び交う言葉は分からなかったが、本能的な怯えがヒナを襲う。  ビリッと胸元を覆う布の裂ける音が、ヒナの鼓膜を震わせた。  驚愕に目を見開く。  裂けたシャツの間からブラが剥き出しになる。  男の手がブラを掴んで左右に引き千切る。  露わになった乳房を乱暴に鷲掴まれて、身体が壁に押しつけられた。  この男達は、自分に乱暴をしようとしているのか。  絶望に目の前が黒く染まってゆく。 「そんな、……樹、くんっ」  助けを求めるヒナの声が、男達の声に塗りつぶされる。 「やだ……やぁっ!」  プツンと小さな音がした。腕を縛っていた縄が切れる。  ヒナは後ろ手に隠し持っていたそれを、自分にのし掛かる男の前に突きだした。 『ぎゃっ』  男は鋭い悲鳴を上げて、慌てたようにヒナの上から飛び退く。  群がっていた男達も、潮が引くように一斉にヒナから離れた。  ヒナが手にしたナイフは、男の血で紅く染まっていた。
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