狙われたヒナ

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『……この女ッ』  肩から血を流す男の眸に殺意が滲む。  …………穢される?   私ここで、この男達に、穢されてしまうの?  恐慌に陥る意識の中、ヒナは思った。  ああ、それはイヤだな。  死ぬほど、イヤだ。  樹くんが大人になったその時に。  自分の全てをもらってもらおうって考えていたのに。  こんなことなら、樹くんが求めてきた時に拒むんじゃなかった。  ヒナは笑った。  男達がナイフを手にしたヒナを窺いながら、ジリジリと間合いを詰めてくる。  隙を突いて、ヒナからナイフを奪い取ろうとしているのがわかった。  時間の問題だとヒナは感じた。  樹くんが大人になるまで、待てそうもない。  私はここで穢されてしまうのだろう。  恐らく、一刻の猶予もないほど、すぐに。  ヒナは手にしたナイフを握りしめた。  穢されてしまったら、もう樹くんの前に立てない。  顔を見ることすら出来なくなるだろう。  それは、辛い。辛すぎる。  生きていくことすら放棄したくなるほどに、絶望してしまうかも知れない。  ――――樹くん、私、どうしたらいいのかな。  ヒナは血に汚れた凶器に視線を向けた。 「樹くん、……ごめんね」  弱くて、ごめん。  ――――私ひとりじゃここから逃げらそうにない。  時間稼ぎも、もうこれ以上出来ない。  でもここで、穢されるのも嫌。  だから、ごめんなさい。  ヒナは、手にしたナイフを、自分の胸へと突き立てた。
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