1392人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………まさか、自分で?」
その問いには答えなかった。
樹を悲しませたくはなかったから、ヒナは朧な笑みを浮かべた。
「わたし、なにも、されて、なぃ」
――――ちゃんと自分を守れた。
血の気が引いた蒼白な顔だったけれど、ヒナは誇らしげに唇を綻ばせて樹を見上げた。
「……ヒナ、ごめん……」
樹の双眼から涙が盛り上がり、滴となって頬を伝う。
嗚咽を殺し、樹は静かに涙を流す。
ヒナは驚いた。
自分自身を責めるような顔をして、怒りの矛先を己へと向けて泣く、そんな悲痛な姿、今まで見たことがなかったから。
浅い呼吸を繰り返しながら、ヒナは彼の頬を濡らす涙を指先で拭おうとした。
けれど、もう腕が持ち上がらない。
流れ出る血と共に、急速に力が抜けてゆく。
意識はこんなにもはっきりしてるのに。さっきまであんなに痛かった傷の痛みも、今はもう感じないのに。
――――大丈夫だよ、樹くん。
ヒナは笑ったつもりだった。
けれど、唇が震えただけで、彼を安心させる笑顔にはならなかった。
それが酷く悔しくて。
「……ごめん、ヒナ。結果として、ボクがヒナを傷つけたんだよ」
自分を責める樹に、ヒナは必死で違うと首を振ろうとする。
声を出して、違うと叫びたかった。
最初のコメントを投稿しよう!