狙われたヒナ

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「…………まさか、自分で?」  その問いには答えなかった。  樹を悲しませたくはなかったから、ヒナは朧な笑みを浮かべた。 「わたし、なにも、されて、なぃ」  ――――ちゃんと自分を守れた。  血の気が引いた蒼白な顔だったけれど、ヒナは誇らしげに唇を綻ばせて樹を見上げた。 「……ヒナ、ごめん……」  樹の双眼から涙が盛り上がり、滴となって頬を伝う。  嗚咽を殺し、樹は静かに涙を流す。  ヒナは驚いた。  自分自身を責めるような顔をして、怒りの矛先を己へと向けて泣く、そんな悲痛な姿、今まで見たことがなかったから。  浅い呼吸を繰り返しながら、ヒナは彼の頬を濡らす涙を指先で拭おうとした。  けれど、もう腕が持ち上がらない。  流れ出る血と共に、急速に力が抜けてゆく。  意識はこんなにもはっきりしてるのに。さっきまであんなに痛かった傷の痛みも、今はもう感じないのに。  ――――大丈夫だよ、樹くん。  ヒナは笑ったつもりだった。  けれど、唇が震えただけで、彼を安心させる笑顔にはならなかった。  それが酷く悔しくて。 「……ごめん、ヒナ。結果として、ボクがヒナを傷つけたんだよ」  自分を責める樹に、ヒナは必死で違うと首を振ろうとする。  声を出して、違うと叫びたかった。
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