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「あぶ、な、……ぐぅっ」
「ヒナッ! 話したらダメだ! すぐ病院へ連れて行くっ」
時間を切り離したように、唐突に、静寂が戻る。
硝煙の匂いが辺りに満ちる。
ヒナを庇いながら、樹は手にした銃を窓の外へと投げ捨てた。
窓ガラスを突き破り、それは漆黒の闇に染まる外へと消えてしまう。
床を踏みしめる足音の方へ、ヒナは顔を動かした。
「ヒナッ、無事か!?」
――――ルカちゃん、大丈夫。
ヒナの唇がルカの名を刻んだ。
ルカの背後には、彼と同じ黒衣の男達が数人見えた。
「後始末はコイツらに任せるで。外に車止めてある。ここらは民家がないから時間稼げるけど、樹を屋内に引き入れるんに陽動でかなり派手にドンパチやってもうたからな。警察来たらマズい。病院もアシがつかんとこ案内する。逃げるで」
「ふうん。手慣れてるよね」
胸の内を見透かすような目で、樹はルカを推し量ろうとする。そんな樹から、ルカはスッと視線を逸らした。
「……海外長いからな。ヒナ、目つむるな! ……傷は……深ないな。よし、いくで」
樹に抱えられたヒナは、あばら家とも言えるこの場所から抜け出した。
辺りに転がるのは、数名の男達。
みな急所を外れてはいるが、その場に蹲り、動けないでいる。
ルカと同じ黒衣の男達が、手際良く怪我人達を外へ運び出すのが見えた。
彼らがどうなったのか確認することなく、ヒナ達は用意された黒のバンへと乗り込んだ。そして、血の臭いが凝るこの場を後にしたのだった。
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