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瞼から透けて見える陽の光に、ヒナはぼんやりとする頭で、朝が来たのだと感じた。起きなきゃと目をこじ開ける。
「おはよう、ヒナ」
柔らかい声に、頭がはっきりと覚醒する。
ヒナはベッドの傍らに座る彼に顔を向けた。
「……樹くん」
「身体、痛くない?」
「身体?」
ヒナはあっと声を上げた。
そうだ。自分は誘拐されてしまって、男達に囲まれて。
そして樹が助けてくれた。
どう考えてみても、あの状況で逃げきることは難しかった。
出来なかった。
……だから。
「樹くん! ごめんね、もうしない。あんなこと、もうしないから」
あの時、樹は泣いていた。
見たことがないくらい哀しい顔をして。
あんな顔をさせてしまった。
あそこで穢されてしまうくらいなら、死んでもいいと思ってしまった。
その選択が樹に衝撃を与え、彼を傷つけてしまった。
ごめんねと、ベッドの上に置かれた樹の掌を握りしめて、ヒナは掠れた声で繰り返した。
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