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「謝らないで。ヒナはあの男達に襲われると思って、自分を守った。――――それは、ボクのためだったんじゃない?」
曖昧な笑みを浮かべる樹の問いに、ヒナは「うっ」と言葉に詰まったが、おずおずと頷いた。
顔を赤くして俯くヒナに、樹は「そっか」と乾いた声で呟く。
「だったら、なおさらだよね」
意味深に、そして、哀しげな色を刷く双眸をぎゅっと閉ざしてしまうと、樹は苦しげに顔を歪めた。
凪いだ海のように、嵐の前の静けさのように。
激情と静逸を背中合わせにしたような樹の顔に、ヒナは一抹の不安を覚えた。
そして、樹は顔を上げ、覚悟を決めたような潔い眼差しをヒナに向ける。
どうしてそんな顔をするのか分からなくて。
ヒナは不安に押しつぶされそうになる。
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