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「ヒナ、聞いて。ボクは先に日本へ帰る」
落ち着いた樹の声。
ヒナの瞳が動揺に揺れた。
「鷹城コンツェルンの内部分裂が表面化したんだ」
それは、父が後継に選ばれてから今もなお続いていた、根深い確執だったのだと、樹は語った。
「ボクの曾お祖母さん、鷹城一族のまとめ役で影の存在だった彼女が、去年病で倒れてしまってね。それから確執は一気に表面化しだしたんだ。その時に一度、父さんは鷹城に凝った膿を排除した。けれど、父が推し進めていた変革を快く思わない幹部の古参連中が、反対意見を主張する鷹城晶側についてしまった。そして、彼らが自分達の権利を主張してきたんだよ。……曾お祖母さん、まだ生きてるのにね」
樹は息を吐くと、「難しくてゴメンね。ヒナに話す必要があるから。知ってもらいたいから」そう言って、小さく笑った。
ヒナは頭の中で、樹が言った話を組み立ててゆく。
全てを理解したかった。
彼を苦しめているものを、知りたかったから。
樹はさらに続けた。
「父は古い体勢を変えようとしない現・鷹城コンツェルンを捨てた。そして、有望な人材を根こそぎ連れて、アメリカに移る」
構想自体は数年前から考えていて、そして、すでに実行へと移していた。
香港や上海、そして、本拠地となるアメリカに、足繁く通っていたのはそのためだと樹は話した。
彼から目を逸らすことなく、ひと言たりとも聞き逃すまいと、ヒナは樹を見つめ続けた。
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