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「鷹城は腐ってる。愚かな鷹城の血縁どもが腐らせてしまった。父さんは何度か変革を起こして食い止めようとしたけれど、本家の石頭達に邪魔されてね。業績は上がったものの、古参連中を納得させるには至らなかったんだよね。ホラ、財閥系企業も古い体質から抜け出せないで、結局、海外企業とかに合併吸収されてる話、よく聞くだろ。父さんがいなくなった後の鷹城も、時間の問題だ。要となる手駒が全て父さん側につているし、鷹城の株価もここ数日で下落してきてる。ヒナが日本に戻る頃には大暴落してるだろうね。焦った晶は、考えたわけだ」
ふふっと楽しげで皮肉な笑みを、樹は唇に刻む。
「晶の孫・望は、ボクと同様とてもIQの高い娘でね。ボクと娶せることで優秀な後継が出来るとかサイコなこと言い出した。ボクを絡め取り強固なつながりを得ることで、父さんの才、そして、人脈ごと手中に入れるつもりらしい。そんなご都合主義でバカらしいことを真剣に考えてる」
ヒナはコクリと息を呑む。
そして、怒りに目の前が赤く染まってゆくのがわかった。
淡々と語る樹は、まだたった12歳なのに。なぜ彼の周りにいる大人達は、樹にこんな大人びた顔をさせてしまうの。
それがひどく腹立たしかった。
「ヤツら、徹が大切にしてる娘を人質にとって彼を苦しめ、そしてボクをも絡め取ろうとしてる。そんなことしても、父さん、素直に傀儡になるタマじゃないのにね。今回のこと、完全に父さんを怒らせたし。――――そして、ボクもね」
酷薄で残忍な、けれど、静謐で凍える氷河にも似た微笑みを、樹はヒナに向けた。
孤独で気高い獣のような樹の姿に、ヒナの心が締め付けられる。
彼が自分から遠くなるような気がして。
樹の掌を掴む力がさらに強まった。
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