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「ヒナが狙われたのは望の指示だ。徹を通して、ボクが愛してるのはヒナだけだって彼女が知ってしまったから。だから、ヒナが狙われてしまった」
樹は苦しげに瞼を落とす。
そして、再び目を開けた彼の双眸に浮かんだ色。
瞬間、ヒナは叫びだしたい衝動に駆られた。
「だから、ヒナ」
ヒナの掌に両手を重ね、樹は祈るような眼差しで見つめてくる。
「ボクはヒナと離れる」
はっきりと淀みなく、自分に言い聞かせるようにして、樹はヒナに告げる。
「そして、望と婚約するよ」
ヒナの唇が小刻みに震えだす。
どうして? という言葉が刻めない。
舌が硬直したように動かない。
目の奥が熱を持って視界が歪みだす。
誤魔化すように瞬くと、睫毛を濡らした水分が、はらはらと頬へと散った。
「あの女の望みはボクと婚約すること。それさえ満たして適当にあしらっておけば、今回みたくヒナにまで害は及ばないはず。ヒナを傷つけた望を、とことんまで利用して追い詰めてやる。懐柔して懐に入り込み……腐った内部ごと崩壊させてやる」
その言葉にヒナは動きを止めた。
好きになったから婚約するわけではない。報復のためだと樹は嗤う。
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