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「誤解しないでね。ボクはずっとヒナが好き。それは今後、なにがあっても変わらない」
樹はヒナの頬に散った涙を指先で拭った。
ヒナが受けた衝撃に、満足そうな顔をしている。
ヒナはヒクリとしゃくり上げながら樹を見る。
樹の吐息が感じとれるほどの距離まで近付いてきて、彼は視線を絡ませてくる。
「必ず迎えに行く」
ヒナの頬を両の掌で覆いながら、樹は真剣な面持ちで伝えてくる。
「父さんとボクで、現・鷹城を一度ぶっ壊すよ。そして、再生させる。それまでの数年間、待ってて欲しい。ヒナ」
会えないのは、いやだ。絶対にいやだ。
ヒナは思った。
けれど。
「……もう、決めたことなんだね」
「うん。ヒナを守るには、現時点でそれが最善だと判断した」
樹は、はっきりと答えた。
ヒナは胸に渦巻く感情を全て押し殺して、にこりと笑った。
そして、その感情を沈静化させる質問を口にする。
「樹くん。私のこと、ずっと好きでいてくれる?」
「あたりまえ。ボク、しつこいからね」
「知ってる。信じてる。……わかった」
いつも通り、何も変わらないイジワルな笑みを浮かべてみせる樹に、ヒナは答えた。
「私、待ってる。樹くんが迎えに来てくれるの、ずっと、待ってる」
ヒナと離れて、望を騙そうとしている、非道な樹。
それでも、彼がそうすると決めたのなら。
私は待とう。待てると思った。
そして、ヒナも樹に負けないくらイジワルな笑みを浮かべて、
「樹くん、浮気したら許さないからね」
彼の口癖を言ってやる。
「それはボクのセリフだろ」
「望さんのこと好きにならないで」
徹が言っていた完璧な婚約者。
その彼女に樹が惹かれない保証などどこにもない。
もし、樹が心奪われてしまっても。
ヒナは、それでも待っていたいと思ってしまった。
――――私以外、誰も好きにならないで。
心の叫びが口を吐いて出てきてしまう。
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