狙われたヒナ

27/30
1391人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
「誤解しないでね。ボクはずっとヒナが好き。それは今後、なにがあっても変わらない」  樹はヒナの頬に散った涙を指先で拭った。  ヒナが受けた衝撃に、満足そうな顔をしている。  ヒナはヒクリとしゃくり上げながら樹を見る。  樹の吐息が感じとれるほどの距離まで近付いてきて、彼は視線を絡ませてくる。 「必ず迎えに行く」  ヒナの頬を両の掌で覆いながら、樹は真剣な面持ちで伝えてくる。 「父さんとボクで、現・鷹城を一度ぶっ壊すよ。そして、再生させる。それまでの数年間、待ってて欲しい。ヒナ」  会えないのは、いやだ。絶対にいやだ。  ヒナは思った。  けれど。 「……もう、決めたことなんだね」 「うん。ヒナを守るには、現時点でそれが最善だと判断した」  樹は、はっきりと答えた。  ヒナは胸に渦巻く感情を全て押し殺して、にこりと笑った。  そして、その感情を沈静化させる質問を口にする。 「樹くん。私のこと、ずっと好きでいてくれる?」 「あたりまえ。ボク、しつこいからね」 「知ってる。信じてる。……わかった」  いつも通り、何も変わらないイジワルな笑みを浮かべてみせる樹に、ヒナは答えた。 「私、待ってる。樹くんが迎えに来てくれるの、ずっと、待ってる」  ヒナと離れて、望を騙そうとしている、非道な樹。  それでも、彼がそうすると決めたのなら。  私は待とう。待てると思った。  そして、ヒナも樹に負けないくらイジワルな笑みを浮かべて、 「樹くん、浮気したら許さないからね」  彼の口癖を言ってやる。 「それはボクのセリフだろ」 「望さんのこと好きにならないで」  徹が言っていた完璧な婚約者。  その彼女に樹が惹かれない保証などどこにもない。  もし、樹が心奪われてしまっても。  ヒナは、それでも待っていたいと思ってしまった。  ――――私以外、誰も好きにならないで。  心の叫びが口を吐いて出てきてしまう。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!