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「ヒナは知らないんだ。望がどれほど冷酷な女か。……自分に似過ぎていて、ボクは絶対ゴメンだ」
ヒナの不安など蹴散らすような、嬉しい言葉を樹はくれる。
ヒナはふふっと声を出して笑った。
未来のことは誰にも分からない。
けれど、心変わりしないと言ってくれた、今の樹を愛おしいと思う。この気持ちを、しっかり覚えておこうとヒナは思った。
「ヒナと離れるなんて死ぬほど辛い。でも、ヒナを確実に手に入れるために、必要なことなら。ボクとヒナを引き離そうとする邪魔なものを排除するためと思ったら。ボクは耐えられる。…………と思う」
自信の無さげな最後の本音が可笑しくて。
可笑しくて、涙が止まらなくなる。
「仕方ないんだよね。でもね、でも……離れるのは……いやだよ」
いやだ、いやだ、いやだ。
押し殺したはずの感情が溢れ出してきてしまう。
困らせたくはないのに。
せっかく樹くんが決めたことなのに。
自分の我が儘が、彼の決断の邪魔してしまう。
鈍らせて、阻んでしまう。
ヒナは思う。
いけないと、これ以上言ってはいけないんだと、唇を噛み締めて溢れそうになる想いに蓋をする。
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