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現社長の長男で、17才になった彼は、14才でMIT(マサチューセッツ工科大学)へ入学、そして16才で卒業し、在学中に博士号まで取得した天才として、アメリカのニュースや新聞などでも取り上げられていた。
その輝かしい経歴は、現鷹城コンツェルンの看板として、こぞってメディアに取り上げられるのも当然と言えた。
サイトで掲載された写真には、5年前の面影を残してはいるものの、眼鏡を掛けたその姿はすでに成熟した青年のもので、ヒナの記憶にある彼ではなかった。
全てが終わったはずなのに、連絡もない。
携帯番号やメールアドレスなども、ヒナは変えてはいなかった。
いつ連絡が来てもいいようにしていたのに。
梅雨が明け、夏が来たら、5年になる。
もう、5年、会ってない。
声すら聞いてはいない。
忘れはしないけれど、忘れたくなる時も多々あった。
「樹くんの、はくじょーもの」
枝を四方に巡らせ溢れるような緑の若葉を付ける木々を眺めながら、ヒナは呟いた。
「でも、仕方ないかあ。あの時見た望ちゃん、綺麗だったもんなー」
樹はきっと、あの娘に心を奪われてしまったのだと、ヒナは思った。
連絡がないのも、それで頷けたから。
ヒナは記憶を手繰り寄せた。
セブから戻って半年後、今からちょうど4年半前のことを思い返した。
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