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カフェを出て、混雑する駅前から樹とヒナは映画館へと向かっていた。
ヒナが見たいと言っていた映画のチケットを、樹が入手してくれていたのだ。
道すがら、樹は先ほどの会話の内容を今一度、聞き返した。
「で? ヒナは京都の大学へ行きたいの?」
「んー、どうだろ。行けたらいいんだけどね。お母さんも大阪にいる方が多いし」
どこか昏い声の樹を窺うようにしながら、ヒナは答えを返す。
「こっちの美大じゃダメなの?」
「……本当はまだ大学とか詳しく調べたわけじゃないの。よくわからないけど……ルカちゃんのいる大学、レベル高いみたいなこと聞くし。行けたらいいなって思うくらいかな」
「……そう。行けるんだったら、あの男のいる大学がいいって思うんだ」
樹の口調が次第に色を失ってゆく気がした。
平坦で、感情が見えなくて。
ヒナは不安になって樹に視線を合わせた。
「でもでも、ホントにまだちゃんと考えてないんだよ」
「……遠くに行くのはイヤ。そんなの淋しいよ、ヒナ」
きゅっと眉根を寄せて苦しそうな表情を浮かべる樹に、ヒナの胸も掴まれたような痛みを覚える。
握った拳を胸に当てた。
「うん、淋しいのは私も同じだよ。……樹くん、私ね、絵の勉強したいの。将来は、ルカちゃんみたいな、お父さんみたいな、画家さんになりたい」
「……そうだね。応援してる。ヒナならなれる。絶対だ」
「ありがとう!」
樹の言葉に、ヒナは弾けるような笑みを浮かべた。
樹は眩しげに、そして、どこか悲哀の滲む眸で、あどけない顔で微笑むヒナを見つめ続けた。
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