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ヒナは目の前に広がる大海原を、呆然と見つめた。
確かにこの夏休み、海に行きたいと言った記憶はある。
――――だけれども。
視線を再度、四方へと流してみる。
雲ひとつない青い空と視界に広がる紺碧の海、ジリジリと肌を焼く太陽、噎せ返るほどの潮の香り、大型客船の縁に叩きつけられる波の音。
身体で感じる全てがリアルすぎて、これが夢だとは思えなかった。
いま自分がどこにいるのか、ヒナには見当も付かなかない。
動転した頭に浮かぶものは、「なんで? どうして?」そんな疑問形ばかり。
その時、ヒナの背後から愉しそうに嗤う声が聞こえた。
「見ーつけた、ヒナ」
バッと後ろを振り返ると、声を掛けてきたのは、広場に繋がる客船の扉からひょこっと顔を覗かせ、薄い笑みを浮かべる樹だった。
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