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ボタンを全て外した半袖の白シャツからは黒のタンクトップが覗き、膝丈のパンツから伸びる足は白く艶めかしい。
風に嬲られた茶色の前髪がふわりと舞って、甘く微笑む相貌が露わになる。
青い空と海を背景に、樹がゆっくり歩いてくる様は、どこか幻想的で、まるで一枚の絵画のように見えた。
口を開けたまま、魂を抜かれてたみたいに呆然と見惚れてしまう。
ぼうっとするヒナを見て、樹は器用に片眉を跳ねさせた。
「なに? やだな、そんなに見つめられたら、ボク、ゾクゾクしちゃうじゃない」
ふふっと嗤う様も、どこか危うい妖艶さを纏っていて、高熱に冒されたみたいにヒナの顔が真っ赤に染まる。
マズい、このまま見つめていては論点がズレてしまいそうだと、ヒナはブンブン頭を振った。
「い、樹くん……これって、一体……」
――――どういうこと?
ヒナの疑問は、発せられる前に樹によって遮られてしまった。
「もうすぐセブ島だよ」
「へ? セ……って……なに?」
聞いたことないと、ヒナは眉根を寄せた。
「セブ島。フィリピンにある」
笑顔で放たれた樹の答えに、ヒナは言葉を失った。
確かにさっきまでは日本に、それも自宅に居たはずなのに。
なんでこんな海の上に、今、自分はいるのか。
なぜこんな事態に陥ったのかと、ヒナは混乱を極める頭で、この場に立ち尽くす前の記憶を、必死に手繰り寄せた。
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