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「またその年代の男かよ……河居といいソイツといい……このファザコンのジジ専め」
憎々しげな小声でボソリと呟く樹に、「ファザコン違うよジジ専ってなに!」とヒナは抗議の声を上げるのだが。
「ふうん。ヒナ、すごく可愛らしいカッコしてるけど。それってボクのために着たんじゃないよね? ……その男のために可愛くしたの? なんで?」
冷たい眸で上から下まで舐めるように見られたヒナは、ゾクリとして思わず後退った。淡いピンク色をしたシフォン生地のワンピースが、ヒナの足の動きに合わせてふわりと揺れる。
精緻なレースが施された裾は太ももの真ん中くらいまでしかなく、そこからはヒナのほっそりと伸びた生足が惜しげもなく曝されている。
そんな彼女の姿を見て、樹は不機嫌に片眉を跳ね上げた。
「これ? 誰のためとか考えてないよ。実は、私が選んだんじゃないの。お母さんが出掛ける前に着せてくれただけなんだよ。なんか画廊のスポンサーさんが若い子向けの服屋さんなんだって。そこの社長さんがくれたって言ってた。樹くん、こういうの好き?」
ふわふわ揺れるスカートの裾をちょんとつまんで、ヒナは嬉しそうな顔で「へへっ」とはにかむ。
「……すごく好きだけど。理性が崩壊しそうなくらい可愛いけど。でも、それ着て他の男と会うとか、考えるだけで頭が沸騰しそうだよ……」
忌々しげに呟かれた小さな言葉。唇を歪める樹からは、静かな怒気が立ち上る。
けれど、スカートをつまんだままクルリと軽快なステップを踏むヒナは気付かず、上機嫌で話を続けた。
「でね、ルカちゃんって実は凄い画家さんで、世界中で活躍してて、昔から憧れてるお兄さんなんだよ」
ヒナは樹に、ルカという人物がいかに凄いのかを嬉々として語って聞かせるのだが。
語るたびに樹の表情が硬く、冷たくなっていくことを、話に夢中になるヒナには、全く気付くことが出来なかった。
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