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林立する高層ビル群の合間を、溢れかえるほどに多い人混みを縫うようにして歩くヒナは、約束の場所である駅前に辿り着いた時、すでにぐったりとへばってしまっていた。
「……あつー……」
湿気を含んだ暑い空気と、アスファルトからは太陽の照り返しで、体感温度は熱帯雨林地域かサウナ並みだ。
車が走る道路には、ユラユラとした蜃気楼まで見える始末。
道路脇の花壇の縁に頽れるように腰掛けて、ヒナはがっくりと頭を垂れた。
「ヒナ、肌が真っ赤になってる。大丈夫?」
斜めがけした四角い鞄を持ち上げそれで扇ぎ、ヒナに風を送りながら、樹は心配そうな顔で声を掛ける。
ヒナは疲れた顔を嬉しげに綻ばせた。
「ありがとう。樹くんも色白だから、焼けたら大変だよね」
「……男に色白とか、ナメてんの?」
ヒナの言葉に、ムッと樹の眉間に皺が寄る。
「え?」
「今年は真っ黒に焼けてやる」
「えっ! ダメだよ、樹くんは今の方がいいんじゃないかな、ね?」
その方が可愛くていいと思う。なんて、男心など全く理解しないヒナは、罪のない笑顔で男のメンツをぶち壊すセリフを知らずに吐いてしまう。
樹はじとっとヒナを睨みながら、
「……言うに事欠いて可愛い言いやがったなこのアマ……」
ぶっちめてやる。と、半眼で見据えながら、ぼそりと零した。
「ひっ、怖い怖い! なんでそんな怖い顔して怒る、」
突然豹変した樹に驚いて、ヒナは思わず花壇の縁から後ろに後退ってしまい、そのまま花壇の中にお尻がズボッと嵌まってしまった。
「ぅ、ひゃっ」
「……アホだ」
ひっくり返ったままジタバタするヒナに手を貸した樹は、彼女に男心を理解して貰うのは無理そうだと、溜息交じりな笑みを浮かべた。
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