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その日は、斎藤と一緒に早上がりだったので、お互い独身のこともあり、二人で夜の酒場に飲みに出向いた。
「おつっ(お疲れっ)!」
サラリーマンのごった返す店内で二人、重たいジョッキを軽々と仰ぐ。
「ぷはーーーっつ!」
最初はウマが合わないと思った俺たちだったが、聞くと斎藤は俺の一個下だった。しかもいざ話してみると意外と話が合い、あっという間に意気投合して一気に仲良くなった!
気難しそうだった彼も酒が進むにつれ「秀さん、秀さん、」と言って慕って来た。
俺も、斎藤に、彼の見た目から「サイバー」というあだ名を付けて、親しげに呼んだ。
サイバーは、三本の焼き鳥を鷲掴みにすると、一気にかぶりつく。
皮もモモも関係なく食いちぎる彼の豪快さに、俺は大笑いだ。
くちゃくちゃと焼鳥を噛みながら、彼は聞いてくる。
「秀さん、あんた小枝子さんのこと気に入ったでしょ?」
目が怖い。
「そんなことねぇよ」
俺はシラっとかわした。
「言っておきますけど、俺は小枝子さん一筋なんで」
「なら、さっさと口説いちまえよ。もたもたしてると俺がさらっちまうぞ!」
少し意地悪に返してみた。
「そんなこと言わないで下さいよ。口説くなんて緊張しちゃって俺ダメなんですから」
そんなサイバーのしょぼくれた顔を見て、俺は再び笑った。
そしてさらっと聞いてみる。
「それにしても彼女、きょうの毒物の対応、すごく早かったなー」
すると、サイバーはジョッキを見つめ、険しい顔で呟く。
「小枝子さん、自殺の経験があるのです・・・」
特に理由も無いが、俺はその言葉に胸を締め付けられた。
自殺を図った理由を聞いたが、彼は黙って何も言わない。
ただ、悔しそうな顔をしていた。
俺は、煙草にゆっくりと火を付けた。
次の日は遅番だったので、薬局には十時に付いた。
待合に患者はいなかった。
俺は調剤室からのサイバーの変な合図を確認しながら待合を抜け、ロッカーのある事務室へと入った。
そこには小枝子さんと見知らぬ男がいて、真剣に何かを話し合っていた、と言うよりは言い争っていた。
軽く挨拶だけ済ますと、俺はその脇を通りぬけようとした。
すると、その男が俺に話しかけてきた。
「お前、こんど入ってきた新入りか?」
彼のいきなりの偉そうな言い方に、俺はいつもの通りに応対した。
「だったら何なんだよ」
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