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小枝子さんがあわててとりなす。
「秀一君、この方は本部の川田さんよ。初めてだったわよね」
「えぇ。そうですか、始めまして。昨日から厄介になっている成田秀一です」
「本部の川田だ、噂は聞いている。あまり問題を起こさないでくれ・よ」
最後の「よ」のところが聞こえなかった。
というよりは、彼が言い終わる前に、気に入らないその喉元に俺が軽く拳をみまったからだ。
そのまま俺はロッカーを開けて、何事も無かったように白衣を取り出した。
背中を丸めて喉元を抑えてる川田はこっちを睨んではいるが、かかってくる様子はない。
怒ると思った小枝子さんは意外にも黙っていた。
白衣を纏った俺は二人を気にすることなくその横を抜け、調剤室へと向かった。
「サイバー、あの川田って何者なんだよ?」
「一応、本部のお偉いさんさ。社長の腰巾着みたいなもんすよ」
「ふーん、そうか」
―「もしかしたら、俺は早くもクビかも知れないな」と、思いつつ、作業に入る。
サイバーが更に小声で話しかけてくる。
「秀さん、奴が小枝子さんの自殺の原因だよ」
「何?!どういうことだよ」
「川田さんは、以前はここの店長で、小枝子さんの元旦那なんすよ・・・」
サイバーの話だと、小枝子さんの自殺未遂が原因で去年、二人は離婚したらしいのだが、川田の方は会社を辞めないでいたので、社長は親戚筋である小枝子さんのことを察し、その計らいで、川田を本部配属にして、半ば強引に引き離した、とのことらしい。
それでも、彼はたまにこうして本部のご威光を傘に未練がましくやって来るとのことだ。
それを聞いて胸騒ぎがした俺は、もう一度事務室に戻った。
すると、そこでは、川田が小枝子さんを拳で殴っていた。
俺も初めて見たが、それは明らかにDV(ドメスティック・バイオレンス:夫の暴力的虐待)だった。
これが全ての理由か・・・。
俺はゆっくりと煙草に火を付け、冷静に怒りを溜めた。
近づいた俺の存在に気付き、目を丸くして驚いた川田は、二度目の俺の拳をくらってその場に気を失って倒れた。
その川田をよそに、俺は小枝子さんに煙草の煙を吐きながら聞いた。
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