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「この一本だけは吸っても構わないですよね?」
「・・・えぇ」
彼女は赤く腫れはじめた頬を恥ずかしげに隠しながら俺を見上げ、
「皆には黙っていてね・・・」
と小さく言ってきた。
そんな彼女に強い愛しさを感じた俺は、その襟元をわしづかみにして、彼女の唇を思いっきり吸った。
小枝子さんは意外にも抵抗しなかった。
しばらく濃厚な接吻をした俺たちは、川田のうめき声で唇を離した。
何か言いたげな川田の首元を掴んで引きずり上げると、俺はそのまま、事務室のドアを開けて川田を調剤室に向けて放り投げた。
「サイバー、こいつ、表に捨てておけ!」
驚き喜んでいる彼をしり目にドアを閉めた俺は、小枝子さんの華奢な体を強く抱きしめて更に強烈な接吻を交わした。
社長の親戚である彼女の計らいで、俺はクビを免れた。
※
あの事件以来、俺と小枝子は付き合うことになったが、当然、薬局の皆には内緒だ。
でないと、管理薬剤師としての彼女の店内での統制がとれないだろうし、サイバーが自棄になって暴れだしそうだからだ。
そんなある日、珍しく患者と言い合う高橋の声を聞いて、俺は待合に出た。
すると、そこでは、まだ十代だろうか、俺が哲也とバイクを乗り回していた頃みたいな感じの若者が生意気な態度で口をきいていた。
「うるっせーな!そんなことお前に言われる筋合い無いんだよ!」
聞くと、何かヤバイ薬を買って飲んでいるらしい。それを高橋が咎めたみたいだ。
俺が応対する。
「何の薬飲んでんだ、俺に見せてみろ!」
「お前、何なんだよ!偉そうに。俺は患者だぞ」
「患者だから聞いてんだよ!その辺のガキだったら放っておくんだよ」
チッ、っと舌打ちした彼はポケットから数種類の錠剤の入ったビニールを取り出した。
確かにヤバイ薬だ。
ネットで売っている。
それを受け取った俺は、そのままそれをゴミ箱に放り込み、そのままその手で思いっきり彼の頬をビンタして張り飛ばしたた。
「死にてぇのか、お前?!」
その場に倒れ、驚いて怯んだ若者は、
「そんなにヤバイ薬ですか?」
と、聞いてきた。
「あぁ、ヤバイ。習慣性がある。こいつを続けていると、そのうち効き目が薄れてきて、その頃にタイミング良くさらに強い薬を売主が薦めてくる。それを飲んだらもう終わりだ。一生、その薬(ヤク)から抜け出せねぇ・・・」
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