薬剤師物語

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その薬の恐ろしさを理解した若者は俺をまじまじと見つめると、 「ありがとうございました・・・」 と言って、頭を下げた。 俺は間に合った、と、思った。 バイク事故と大学受験の件で、痛感している。 俺もそうだが、若い頃は無知故に大切なことを何も知らねぇ。 だから、簡単に一生修正のきかない道の踏み外し方をする。そんな、道を踏み外しかけた時には、こうして強く大人の意見を言ってやらなければならない。 何があっても、俺のオヤジの様に強く・・・。 いまのやりとりに小枝子が心配して出てきたが、無事済んだので、俺は素っ気なく調剤室に戻った。 二人の関係がバレては薬局の運営に良くない。 高橋が俺の後を追ってきて調剤室で親しげに話しかけてきた。 「成田君、ありがとう。おかげで助かっちゃった」 目にゴミが入ったのか、笑顔でしきりにパチパチしている。 そんな様子を小枝子はガラス越しに寂しく見ていた。 薬局からの帰り、少し離れた公園で、俺は小枝子と待ち合わせをしていた。 しばらくして、彼女がゆっくりと現れた。 そのしょんぼりした様子を見て俺は聞いた。 「元気ないな、なんかあったのか?」 「ううん、別に・・・」 「そんなことないだろ?何でもいいから言ってみろよ」 俺の強い問いかけに彼女は口を開く。 「・・・なんか、高橋さんとのやりとりを見てて、こんな年増の私より、高橋さんみたいに若い娘の方があなたにはいいのかな、って思っちゃって・・・」 彼女の、こんな消極的なところが、川田のDVを引き起こしたのかもしれないな、と思いつつも、その中に秘められた年下の俺に対する小枝子の心の葛藤と不安を感じながら、俺は口を開いた。 「俺はアンタの事が好きだ。それは絶対に崩れねぇ。だからもっと自信を持ちな」 「信じていいの・・・」 大きな眼で問いかける彼女に俺はバイクの横から丸いスイカくらいのピンク色のものを取り出した。 「俺が薬局に来る前の日、誕生日だったんだってな。かなり遅くなったけど、俺からの誕生日プレゼントだ」 そう言って、俺は彼女の頭にすっぽりとフルフェイスのヘルメットを被せた。
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