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薬剤師物語
山村憲司
1 調剤薬局恋物語
哲也と一緒に夜中の峠をバイクで攻める。
ノーヘルの風圧は髪の毛をたなびかせ、その気持ちよさに右手のアクセルを更に捻る。
「最高だぜ!」
ヘアピンを何度も交わし、山頂のドライブインに差し掛かると、突然サイレンが鳴った!
白バイの赤い点滅灯が二つ追いかけて来る!
哲也のバイクは更に加速してカーブを攻める。
俺もそれに続こうとした瞬間、一台の白バイに回り込まれた!
「くそっ」
交わそうとしたが交わしきれない。バイクの性能は向こうの方が完全に上だ。強い口調でやかましく制された俺は、ついに観念してアクセルを緩めバイクを停めた。
もう一台の白バイは哲也を追って行った。
降りてきた白いヘルメットに職務質問(せっきょう)を受けている俺の右頬がほのかに明るくなった。
「えっ?!」っと思ってその方を見ると、暗闇の木々を照らして、その向こうにオレンジ色に立ち上る煙が見えた。
「まさか!」
俺は制止する警官を無視して、その方向に走り出した。
バイクと違い、走っても走っても、なかなかその煙の所に辿り着かない。
それでも俺は全力で走った。
近づく明るさと、燃え盛る黒い金属の残骸を遠くに見ながら、俺は喉の奥から叫んだ。
「哲也ーーーっっつ!!」
哲也に付添って病院についてきた俺は集中治療室の前で、静かに座っていた。
じっと廊下の四角い床のタイルを見つめて黙っている俺に、二人の警官もさすがに声を掛けられない様子だ。
ICU(集中治療室)のランプが消えた。
そして、開かれた扉から酸素マスクに点滴の哲也がベッドごと運ばれて出てきた。
近づこうとした俺は周りの者に制される。
「哲也は無事なのか!」
俺は入口に現れた全身緑色の手術着の奴に聞いた。
「かなりの火傷と両足の骨折だが、命には別状ない。二度と無茶をしないことだ」
俺はその言葉を聞いて安心すると、全身の力が抜けた。そして、その場に膝を付いた。
「先生、ありがとう・・・」
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