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しかし、そんな言葉も意味の無いものになった。
哲也は三日後に死んだ。
死因は薬の副作用らしい。
弱り切っている体に、合わない薬剤を投与された哲也は、その副作用に耐えきれず、呼吸困難でこの世を去った。その連絡を受けた俺は自宅謹慎を破って病院に駆け込み、涙の続く限りに泣いた。
退学は免れたが、停学で自宅謹慎中の俺はそれ以来、何もやる気がしないまま、ただ煙草を吸いながらヒマな時間を過ごしていた。
そんな俺の部屋に珍しくオヤジが入ってきた。
その神妙な表情に「コノヤロウ、俺に説教でもするつもりか?!」と身構えると、床に座ったオヤジは持ってきた黒い筒を開け、中から何かの賞状を出した。
俺が黙って見ていると、オヤジは真剣な目で俺を見上げて言った。
「秀一、これは父さんの大学の合格証書だ。大学に受かったんだが、家が貧しかったから父さんは高校を卒業してすぐに働いた。でも父さんは、本当は大学に行きたかったんだ。大学で勉強したかったんだよ」
以前、オフクロに聞いたことがある。
オヤジは高卒で就職したために大変苦労したらしい。
後から入ってきた若い大卒の上司に顎で使われたり、学歴の事で嫌味を言われたりしたこともしばしば。それでも歯を食いしばって努力した結果、同期でも出世組の所長にまで上り詰めたんだと言っていた。
それにしても、自分の大学のことを俺なんかに言ってどうするんだ?と言いかけた瞬間に、オヤジは俺に頭を下げてとんでもないことを言った!
「頼む、大学に行ってくれ!息子のお前に父さんの夢を叶えて欲しい」
俺は目を丸くして反論した。
「おい、冗談だろ?!」
なんて無茶苦茶なことを言うオヤジだ。俺はここ半年、まともに勉強机に向かったことなんかねぇし、卒業したらバイクの修理工でもやろうと思って、そんな雑誌ばかり読んでいた。そんな勉強の出来ない俺に、あと一年もない高校生活の間に大学受験の勉強をして、大学に受かれって言うのか?!
絶対無理だろ、おまけに停学中だし。
そう思った俺は突拍子の無い話をするオヤジの目を睨みつけた。
すると、いつもは目を伏せてどっかに行ってしまうのにきょうはそうじゃない。逆に見返してくる。
俺もオヤジも互いの目をこんなに凝視したのは生まれて初めてかも知れない。
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