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「毒物を飲んで自殺を図った女性が運ばれてきた!何か薬はあるか?」
「先生、胃洗浄は?」
「いまやってる!」
「ちょっと待って下さい、管理薬剤師に代わりますから」
そう言って俺は電話の子機を小枝子さんに渡すと、クレメジンカプセルの箱を見つけ出してスタンバイした。
電話を受けた彼女は、すぐに答える。
「先生、クレメジンカプセルを処方して下さい。こちらでカプセルを開けて中の活性炭を取り出しますので。それを飲ませて消化器官内に残っている毒物を吸着させて下さい」
「OK!わかった!」
電話が切れた。
その瞬間、俺が指示を出す。
「斎藤、お前、力ありそうだからクレメジンカプセル割ってくれ!即効だ!」
「OK!」
彼は、俺が物凄い速さでヒートから取り出した白い大きめのカプセルを両手の親指と人差し指で次々と壊し始めた。
さすがに俺の見込んだだけのワイルドな奴だぜ!
カプセルの中からは、真っ黒な活性炭が次々とこぼれ、振るいの下にある受け皿に溜まりだした。
それを小枝子さんが計って素早く手分包(機械を使わないで分包紙に薬を包む事)すると、その束を高橋岬に持たせて向いの病院に急いで届けさせた。
「そのへんでいいぜ」
俺の声に斎藤は手を止めた。
「毒物って何を飲んだんでしょうね?」
俺が小枝子さんに話しかけると、少しうつむき加減に「わからない」とだけ言って彼女はその場を離れた。
毒物へのこういう対応は一度でも経験した薬剤師でなければ知らないことだ。いろいろな薬局を転々としていた俺は一度だけそれに遭遇したので知っていた。
俺は電話を渡すことで彼女の実力を試したのだが、その対応の早さは半端じゃなかった。薬剤師としては俺より全然経験と実力がある。
そんな彼女にその内容がわからないはずはない。
「なにかあるな・・・」
自分の経験や過去のことに触れようとしない彼女に俺は何かしらの共感を覚えた。
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