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当然、キャッチをしているのは俺の店だけじゃなく、ざっと周りを見渡しても20人以上の黒服達がそれぞれ自分の店のキャッチをしている。そんな状況の中、ド素人の俺が何組もの客を掴まえられるはずもなく、俺の声はクラクションの音に虚しくかき消される…。店長にコツを聞いても、
「気合いだよ!」
とだけ言われ、また外に出される。
何人にも声をかけ続けるが、話を聞いてもらうどころか、立ち止まりさえしない。シカト…シカト…シカト……。
自分の存在自体をシカトされてる気さえするほど全く相手にされないまま二時間以上の時間が過ぎるが、まだ一人も店に連れて行ってない。
(ヤバい、ヤバい、ヤバイ!)
どんどん営業時間の終わりが迫ってきて、そして…そのまま…終了…。
一日の営業が全て終了した。結果は当然0人。俺の記念すべき初水商売は、一日中ただ外に立っていただけで終わってしまった。
(俺って…今日の給料あんの……?)
なんか思ってたのと全然違う現実と、この仕事に対する違和感だけを抱きながら店に戻り、掃除と片付けを終え、解散。
特に店長からの言葉もなく俺は店を出た。今日の感想は…ない。
ただあっけなく一日が終わった。
次の日も、その次の日も外の仕事は続いた。日を追うごとに多少の客は掴まえられるようになってきたものの、それでもやはり悲惨な日は一日中立ち続けても客は掴まえられずに雨風にさらされ続ける。この店に入って2週間、未だ店内の仕事は何一つさせてもらえてない…。
こんな外の仕事が何日も続いてくると、初日に感じた《違和感》は確実に《不満》に変わってきて、充実感とかやりがいとかいった感情とは程遠いところに気持ちは向かっていった。
(俺一体何やってんだ?
酔っぱらい相手に…いや、
酔っぱらいさえ相手にされてない
こんな誰でもいいような仕事して
しまいには通行人にウザがられ
意味ねぇし、くだらねぇし
大体こんな事する為に夜始めたんじゃねぇんだよなぁ…)
誰に対してじゃなく、一人心の中でこんな言葉たちを繰り返していた。俺はとにかくこの外の仕事がイヤでイヤでたまらなかった。
が!だがやっと一ヶ月も過ぎた頃、ようやく光が差す!新人社員が入ってきたのだ。案の定、俺はやっとその日から店内の仕事に回される事になった!
ありがとう新人!キャッチ頑張れ新人!
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