28人が本棚に入れています
本棚に追加
カウンターに入ってさらに一ヶ月。この頃には初めて水商売に飛び込んだ時の
《何かをやってやるぞ!》
的な感覚は失せ、刺激もなく、遅刻は多くなり、
(自分は何がしたくて?何の為にこの仕事を??)
などを考える事さえしなくなっていた。
それと、店内の仕事で何よりも腹立たしく慣れというものに難しいのが、女の子からの命令とも言える雑用・パシりだ。当たり前のように悪びれもせずに、
「タバコ買ってきて」
だの
「ストッキングと飲み物買ってきて」
だのと走らされる。何度も…何度も…。
自分より3つも4つも年下の、まして女にパシりにされる日々。今までの人生でそんな経験なんてあったはずもなく、店長に言っても、
「それも仕事だよ!」
とまた走らされる…。頭じゃわかっているものの、感情は抑えきれないものがある。
「っていうか、そんくらい自分で買って来いよ!」
なんて言い返す事が許されるはずもなく、
「ハンカチとガム買って来て」
だの
「スプレーとナプキン買って来て」
だのと、また買いに走らされる。そして戻ってきたらまたお決まりのカウンター業務。こんな繰り返しの日々に不満は溜まる一方で、溜まるというよりは不満しかない。毎日同じ日が続く。毎日。毎日…。
そんな仕事が3か月も経ったある日、俺の緊張の糸はついにプッツリ切れ、店に仮病を使い、久しぶりに仲間と2人で飲みに出掛ける事にした。
(どうせ俺なんか居なくても何も困ることなんてないだろうし…)
と。家の近くの居酒屋で、日頃溜まりに溜まったウップンと水商売の理想と現実の愚痴を吐き出し、とにかく楽しく酔っぱらっていった。いい感じに酔いが回ってくると、やっぱりどうしても街に出たくなる!
(見つかったらヤベぇよなぁ…)
という不安も当然脳裏をよぎるのだが欲望には勝てず、俺達はキャバクラに繰り出す事にした。そしてそこでのいつもとは逆の『客』としての立場が妙に新鮮で、俺はその居心地の良さを満喫した。あっという間に時間は過ぎ、さすがに酔いも回った午前2時頃、
「そろそろ帰ろっか」
と俺たちは店を出て足取り軽く歩き出した。歩き出した途端、見たことのある顔が目の前に仁王立ちしている…。
「て…店長……」
一瞬で酔いが覚め、血の気の引いていく音が聞こえるくらいに頭が真っ白になり、
「お…お疲れ様…です…)
しか言葉が思いつかない。あっちは何も言わずにジッと俺を見ている。
最初のコメントを投稿しよう!