【三】狡い恋

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私の手首を掴んでいる社長の手に噛みつく。 「…イタッ」 社長が思わず手を離した。 その隙に部屋を飛び出し、エレベーターに飛び乗る。 隣室で待つ店長の元に、私は行くことが出来なかった。 社長の言ったことは図星だった。 社長の唇の感触。 ワインの味が口に残っている。 このまま店長に抱かれることは出来ない。 エレベーターは一気に下降する。私の心拍数は上昇している。 ドアが開くとそこには社長秘書が立っていた。 秘書は私に視線を向けると、冷たい眼差しを向けた。すれ違いざま、小さな声で囁いた。 「洋服の襟にワインがついてるわよ。刺激的な味がしたでしょう」 思わず手で襟を隠す。 エレベーターのドアがゆっくりと閉まる。ドアの隙間から私を見つめる彼女の唇が、不敵な笑みを浮かべた。
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