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めっきり日が沈むのが早くなった。
今日は一段と寒かった。
今年の夏は暑かった。
その後の秋も残暑と言うには暑過ぎる日が続いてこのまま冬なんて来ないんじゃないかと思っていたけど、この頃になってようやく涼しい日が増えてきた。というか、寒い。
襟元をかき合わせながら歩きようやくたどり着いたアパート。
ドアに運送会社の不在連絡票が挟まっていた。
6畳ワンルームロフト付き。バストイレは別で、洗濯機内置き。
殺風景なのは仕方ないにしても、フローリングにはもうそろそろ何か敷いた方が良さそうだ。
ここが僕の世界。
就職のためこっちへ越してきてから半年とちょっと。
内向的な自分には友人がいない。
傷つけ合うのが恐ろしくて天気の話しかできないのだ。
あ、でも、クリーニング屋のおばちゃんは別かな。
「あんた、ちゃんと食べてるの?」って、お母さんみたいだ。
密かに東京の母ちゃんと呼んでいる。
テレビを点けるとすぐにDVDを再生した。
この間買った最近お気に入りのアイドルのものだ。
スタジアムに数万人の観衆。
全ての人が5人組のアイドルを求めて集まっている。
僕も。
テレビの画面を介して小さな僕の世界が急に大きな世界と繋がるようだ。もう最近は毎日のように見ている。
これしか楽しみがないと言っても過言ではない。
誰かが見たらほんとに、寂しい光景だろう。
しかし彼女らを見ていると元気が出る。
元気でキレのあるダンスと歌詞に込められたメッセージ。
何度見ても感動的だ。
熱狂する観衆とそれに応えるアイドル。
自分もあの中の一人になったようだ。
彼女たちを見ているとアレを思い出すんだ、つい。
母がやってた、バレエ。
発表会には父と弟と、男3人で応援に行ってたな。
そうだ、応援だ。
女の子が舞台の上で回ったり跳ねたり。
時には寸劇みたいなものも織り交ぜて、普通のバレエの発表会とは少し違った趣向があった。
お母さん、頑張ってたな。
たまには電話でもしようかとスマホを手に取ったところで、テーブルの上に折りたたまれたままの不在連絡票が目に入った。
そうだった。
開くと送り主の名前が母になっていた。
お母さん。
二つ折りの連絡票を開いて見たのにまだ下の方が細く折られている。
あれ?この紙こんなに長かったかな?
と開いてみた。
えっ!
僕は小さな声を上げた。
開いた下の部分に印刷されていた。
これっていったい。
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