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猫だよ。
見ればわかるだろう。
それ以上でもそれ以下でもないさ。
公園にいる俺を、時にはオヤジが追いかける。
追いかけて、たまに植え込みまで入って来やがる。
ちょっとやりすぎじゃないのかな。
あんたどう思う?
午後は行く当てのないオヤジとこの公園で日向ぼっこ。
しかし、俺の腹をアイロンかけるみてぇに撫で回すのはちょっと勘弁。
どうせならレディにお願いしたい。
俺は猫だ。それ以上でもそれ以下でもない。
しかし、この辺りの人間ときたら、勝手な名前で俺を呼ぶ。
例えば、道路を挟んだ向こう側のアパートに住む年増女。
だが無闇にセクシーだ。
セクシーな年増女。と、言っても、どちらかと言うと、お年寄りだな。
しかし、彼女はいい女だ。
朝、決まって俺を呼ぶ。
「ミーちゃん!」
声も限りに何度も叫ぶので俺も出て行かないわけにはいかない。
そして、彼女の足元で金属のボウルに盛られた冷めたご飯や元はどんなおかずだったかわからないような、その他諸々を貪り食うんだ。
一心不乱にボウルに頭を突っ込んでいると、彼女は満足顏だよ。
見えてないだろうって?
なに、俺ぐらいになれば気配でわかるよ。
女を喜ばせる手練手管は心得ているつもりさ。
そしてそうだな、昼になったら公園の反対側のコンビニに移動だな。
ここではブッチーと呼ばれている。
バイトの若い女の子が魚肉ソーセージをくれるんだ。
わざわざバイトしているコンビニで買ってくれるんだ。
毎日じゃねぇけど、バイト代から俺に貢いでくれてるんだと思うと、涙が出るぜ。
ごめんよ。
極力会いに行くようにするから、俺がいない日も悲しまないでおくれ。
夜は夜で飲屋街の駐車場に行かなきゃならないんだ。
女が待っている。
「斎藤さん!」と嬉しそうに話しかけてくる彼女の手にはキャットフード。
しかも缶詰。
俺専用の入れ物に入れてある。
赤だ。
俺の好みもわかっている。
可愛いやつだ。
彼女はなんだか早口で話しかけてくるが、いつもなんだかよくわからない。
そして少し香水の匂いがする。
ま、ざっとこんなもんだな。
他にもいろいろあるが、待ってる女を悲しませないように割と毎日忙しいんだよ。
あんたを待ってる人はいないのかい?
期待に応えなきゃならないのは大変かもしれねぇ。
だけど、待っててくれる人がいるってことは、けっこういいもんだ。
だから、早く帰りな。
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