第1幕

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 有頂天になってる僕はシングルマザーの実態に 及び腰ながらも、ちょんちょんと手を出さずには いられない。  スイッチも押してないのに、原田の姿が勝手に 消える。 「故障?」  しーちゃんが起きて、ドアを開け、パタパタと こっちに来る音が聞こえる。 「パパーッ」  かくれんぼなんてしない。迎えに行き、しーち ゃんの不安を受け止める。  泣き顔から、過去の悲惨なトラウマを感じる。  しーちゃんといると、僕は頑張って、パパにな る。       B1  主婦になる前、わたしは芸人になることを夢見 ていた。  結婚を機に家庭に入った。  事務所に所属したものの、売れないまま、消え てしまっていた。  自分より大切なものがこの世にあったと実感で きる。  宝物以上の娘二人、ももとふじを寝かせた後、 冷蔵庫のお酒もなくなり、眠気覚ましにスルメを 噛む。 「スルメって何かの匂いに似てる。何かしら?」  こっそり、玄関でサンダルを履く。  コンビニにビールを買いに向かう。  なのに、わたしは商店街に迷い込んでいた。通 りを歩いているだけで、超わくわくしてくる。  うらぶれてる商店街どころか、活気に満ちあふ れてる。  戦前、喜劇王として君臨したエノケンがやって いる喫茶店がある。  西川きよしと桂三枝がやっているコロッケ屋で は、フィーリングカップルが夜な夜な、開かれて いる。  小劇場が集まってるように、過去のお笑いの偉 人たちが昭和な商店街で、お店をやっている。  神戸の一角で、お笑いの歴史を繰り広げている。  博物館なんか目じゃなく、生きて喋り動いて、 オナラもする。  トニー谷だってコント55号だって、立ちショ ンもし、ケンカもする。  最近流行りの、大掛かりなホログラムどころか、 酔って妄想を見てるんだくらいの自覚は残ってい る。  きつく瞑った目を開けると、シャッターの閉ま ったうらぶれた商店街が眠っていた。 「ミカボン」  ってわたしの芸名。  本名の未由に漫画のバカボンが合わさった。中 学時代、わたしのバカさ加減に友人から、そう呼 ばれ始めた。  クラスではバカなことをしては結構、人気があ った。 「ミカボンって、最高に面白い」  なんてよく言われた。  女子はもちろん、男子からも人気はあった。 「明るいし、面白いし、開けっぴろげで、気取っ てへんし、人気がある。  けど、モテてるんとは違うで。男友達に近い」
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