第1幕

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 大笑いする。どさくさに紛れて、下の名前で呼 ばれたことに好感。  箸が転がっても笑う女子高生みたいに、わたし は未だによく笑ってしまう。  その上、お酒に強く酔わない。 「飲まなくても、飲む前でもこの陽気、キャハハ ハ」  わたしのノリツッコミに対し、 「お酒は酔うためにある。弱い方がお得で価値や のに、酔わない奴が強いと自慢するのはおかしい」 「キャハハハ」  当時はこんなセリフに大卒は知的だと思い、く らっと来た。  が、同じセリフを今、聞かされたら、どん引き するだけ。 「子はかすがいって本当」  ももとふじがいなかったら、とっくに離婚にし てる。  結婚は怖い。好きだったところが大嫌いに変わ る。  会社で何人からも誘われ、調子に乗ってデート まがいのことも複数とし結構、モテた。 「お笑い系小悪魔」 「男たらし」  なんて言われたけど、笑い飛ばした。  狙いは今の旦那一人に絞る。  黙々と、一生懸命、仕事をするところはよかっ た。ダメ男は嫌いだけど、頑張ってるけど、ダメ な人は好きで、応援したくなる。  地道で派手さもない。手際よく要領よくするタ イプじゃなく、自分で納得しながら、仕事をとつ とつと進めるタイプ。 「浮気もしそうにない」  同じ会社だから、残業で遅くなるのは知ってい た。驚異の離婚率五十?lの職場。  週に三回のアルバイト先の職場が、わたしの舞 台。そこでは男女から人気者。  でも、本来のお笑いの仕事はほとんどなく、わ たしはもらったアパートの鍵で入り、せっせと彼 の夕飯を作る。  次の日の会社帰り、片付けに行ってみると、昨 日の夕飯は手付かず。会社で夕飯や夜食を食べて るのだ。  知ってるけど、少しつらい。  それでも半分でも食べていてくれたら、と思っ てしまう女心。悲劇のヒロインなわたし。 「うう」  彼の部屋で一人、泣き崩れる真似。  でも、わたしの健気な作戦が功を奏したのか、 結婚を申し込まれる。 「ずっと一緒に暮らす?」  手管で焦らしても仕方ないと思った。 「はい」  素直に言葉が出た。恋愛感情も少しはあったけ ど、ほっとけない人だった。  わたしが面倒を見てあげなきゃ。わたしが明る くしてあげよう。わたしが楽しくしてあげよう。  そんな思いは新婚半年で砕け散った。  元々、一人で何かをするのが好きな人だった。 わたしはみんなと楽しいのが好きだった。
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