第1幕

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 って思う時はどんな時?  スーパーの試食を  食事代わりにしてる時。  お茶を五煎まで出す時。  人生振り返って、 「豪気に生きてきたなぁ」  と反省。         A1  スルメを齧っていた子のお母さんだったのには 超びっくり。  信じられないことに、ももとふじのお母さんが パートで入ってきた。  川下未由さんと一気に距離が縮まる。  感動の余り、よろけた僕に、 「くっ付き過ぎ」  って、めちゃ笑われる。周囲を明るくする笑い 声が響く。どころか、とどろく感。  まるで、笑顔爆弾を落とされたよう。  周囲をなぎ倒し、木っ端微塵な僕。  未由さんが追い駆けてきて、僕のバッグを蹴る。 「一人で帰るなッ」 「す、すみません」  蹴ったんじゃなく、自分のカバンを振って、当 てたのかもしれない。 「(こんな女の人は初めて――)」  ももふじ目当てだったのに、同じくらい、未由 さんにはびっくり仰天。  僕は一歩下がって歩きながら、 「あの子のお母さんなんだ」  と思ってしまう。 「あの子のお母さん」  しばし黙っている僕に対し、勝手に喋っては勝 手に笑いっぱなし。  ももふじを自分の子にするには、お母さんであ る未由さんを無視できない。  子供優先で、未由さんはおまけ。  連れ子じゃなく、連れ母。  言葉は悪いけど、 「(要するにババ付き?)」  日増しに、気が合うのはもっとびっくり。  今の未由さんより、子供時代の未由さんに会い たい。  四才の未由さん、三才の未由さん、二才の未由 さんに――。 「めっちゃ、可愛がるのになぁ」  奇跡のももふじ以上かも――。  自分の子供にしたい欲が入道雲のようにむくむ くする。  算数のノートを開いて、無性に掛け算をしたく なる。  昼休み、未由さんは子供の話をする。 「それでねぇ」 「へぇー」  お母さんなんだ、と思わされる。  次に、旦那さんの話をする。 「本当にねぇ」 「ふーん」  人妻なんだ、と思わされる。  めちゃ仲いいんだ、と思わされる。  外出の用事を作り、直帰を上司に申告。即行で 帰路に着く。  アパートのベランダから、神戸のシンボル、赤 いポートタワーが見える。  足柄山の金太郎となって、わしわし登る自分を 想像。  未由さんの二人の娘、ももふじには会えていな い。  でも、僕から聞かなくても、会社じゃ話題によ く出る。  会いに行こうか。でも、ストーカーっぽいか。
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