第1幕

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 しーちゃんをお風呂に入れた後、寝かしつける。  子供に目覚めたからって、僕は保父さんになり たいわけじゃない。  大勢の子のお父さんになりたかった。それも年 月を掛けず、一気に手っ取り早く。 「若くして出世するみたく」  会社での出世は望んでないどころか、その前に 能力自体ない。  単純に子供が可愛い。小学校三年生までがスト ライクゾーン。  それ以上に育った後のことは考えないことにし ている。その時になったら、その時のこと。  楽観が僕の取り得。 「二十代で最低、十人は欲しい」  僕には時間がない。まるで、死期が迫ったよう な言い方――。  らっきょをぽりぽり食べる。        2  乳母車や若い母親に目が行く。  後を付ける。親子連れ、それも子供に目が行く。 小学三年生まで。  普通、お母さんの方に気が行き、子供は付け足 し程度。僕の場合、子供から選ぶ。  子供は大抵、みんな可愛かったが、やはり、好 きなタイプってあった。  僕は呆然とする。衝撃が走る。海が近いホーム センターに寄った時のこと。 「ああ、可愛い」  めっちゃ可愛い。たまらない。  二才くらいだろう。商品カートの上に乗り、お ばあさんに押されてる。  水色の小さな服が超超超、似合っいて、髪はお かっぱ。  何といっても顔。しもぶくれで、とぼけ顔。僕 だって、負けじと、とぼけオーラ全開にする。  なんて、可愛い子なんだ。数多の中で群を抜い ている。子供に一目惚れ。  でも、恋とは違う。自分の子供にしたい欲。 「(父性愛?)」  少し違う。これを何と呼べばいいのか、誰か、 教えて欲しい。  完全に降参したのにはさらに訳があった。 「参りました」  匂いが超いい。目眩がするほど――。脱帽。  子供特有の匂いに加えて、その天使はスルメを しゃぶっていた。  それもつまみ用に柔らかく加工したものじゃな く、シンプルに干した固いスルメの足。吸盤のつ ぶつぶが超キュート。  二才の女の子にしゃぶらせる? でも、それが めちゃ可愛い。 「たまんない」  スルメの匂いと、つぶつぶがどんなBGMより 素敵で、どんな可愛い服より、二才の子を可愛く する。  僕は膝から崩れ落ちる。  のどに詰まらせないか、心配になる。  僕は後を付けていた。幸い、おばあさんは車じ ゃなく、歩いて、海近くのホームセンターに来て いた。 「近所だ」
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