第1幕

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を買う。匂いからあの娘を思い出す。  チャップリン・ステップが自然と出てしまう。 「な、なんて、日なんだ」  テレビの懐かし映像で知ったけど、昔、キャン ディーズなんて歌のグループあったらしい。  しーちゃんを入れ、あんな三人組になるかもし れない。  なのに、加えて、四人目の降臨。  お母さんらしきは三十半ばだろうか。その娘は 二才辺り。 「あんり」  きつい顔したお母さんがそう呼ぶ。僕の頭は駆 け巡り、あんり、アンリ、杏里にヒット。 「わぁ、こわ」  ガンを飛ばされた。あの娘を警護するSPみた いだ。  自分が誘拐予備軍、いたずら予備軍に思えてき てしまうから、不思議を越えて怖い。  気の強さが顔に出てる。全然、タイプじゃない。 昔、暴走族の頭をやってた感。命令的で意地の悪 そうな感じ。  後ずさりしながら、僕は想像する。晩婚で気の 弱い年下の男をいてこまし、結婚したのかも――。  いや、女性から襲うに近い形で射精だけさせて、 入籍せず、だから、離婚もせず、シングルマザー の道を選んだのかも――。  かもばかりで鍋ができそう。 「子供はきっと旦那似」  お母さんとは似ても似つかない。めっちゃ可愛 い。  シングルマザーに違いない。あんな女性を受け 入れる懐の大きな男性はあってはならない。  僕は火中の栗を拾う感。戦略が頭を駆け巡る。 「お父さんは嫌だ」  杏里のお父さんにはなりたいが、あの母親と所 帯は持ちたくない。  どうしよう。諦めるのは簡単。  杏里と出会わなかったことにしょう。 「今日は運命が多過ぎる」  僕の足が後退する。どうしたら、横取りできる んだろう。  殺意なんて安易だ。杏里も殺人犯がパパなんて 嫌に決まってる。  壁に遮られ、もう後ずさりできない。警護のガ ンを飛ばされている。  ん? ガンじゃなく、まさか、僕に狙いを定め てる?  そ、そうだ! 遠い親戚の面白い優しいお兄さ んの座狙いで行こう。 「第二のパパ」  第一のパパの座はパス。それだけは勘弁してく ださい。腰を折って、お辞儀。  子供を先に走らせ、近寄って来る。僕の体が震 える。とぼけオーラが萎縮する。  メスのカマキリみたいで、先の男は食われたに 違いない。おしっこを漏らしそうな域。  何もしてなくても謝りたくなる。 「す、すみませんでした」        3 「あれは夢だったんだろうか」  金太郎の僕は熊と相撲を取っている。大きな熊
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