第1幕

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を僕は土俵際に追い詰め、投げ飛ばす。  強い記憶だった。夢にしてはリアルすぎる。  金太郎のその後が僕? その後のその後の、ず っとその後が僕?  前世が金太郎? 金太郎の子孫が僕? 生まれ 変わり? 「どれも微妙に違うと思う」  僕自身が金太郎の気がしてならない。  幼い頃、現代にタイムスリップして、その記憶 がないだけ?  あれは千年前に起こったおとぎ話じゃない。  相模の国、足柄山。よく太って血色がよく、裸 に腹掛けを着けている僕。  まさかりを担ぎ、熊や鹿、猿らを友達にしてる 僕。  日本では三日に一人の割合で、子供が虐待死し ていた。  会社に戻る途中、暇だったので、ハーバーラン ドに行く。アンパンマン館もあり、子供連れがや たら多い。  少子化と真逆で、ここだけははポンポン生まれ てる感がある。  近所の若い主婦だって、自転車のペダルをこい では来て、子供の手を引いてはぶらぶらしてる人 がいっぱい。  僕は動きの変な奴を見つける。事件の可能性。  僕は分かってるぞ視線を飛ばす。  男が怯む。僕はその母子のお父さんの振りをし て、横に並んでしばし歩く。  男の方を振り返り、もう一度、釘を刺す。  若いお母さんが横に並ぶ僕の方を見て、急に子 供の手を引き、足早になる。  置き去りにされた僕は振り返る子に、手を振る のがやっと。 「心外だなぁ」  みんな、自意識過剰。監視カメラが僕を見てい た。  笑顔ながら、若い母親たちは変質者から子供を 守るため、常に警戒レーダーを張り巡らせている 風。  会社ではパートの面接が会議室で行われていた。  誰もいない休憩室で、最近の自分を僕は振り返 る。 「その後の金太郎って、大したことないなぁ」  昔、神童、今はただの人みたい。  子役で驚異的に売れて、凋落してどん底の人生 を味わい、それから少し抜け出て、博打的人生を 辞め、真っ当な会社勤めした感。  足柄山の金太郎のその後。  武将・源頼光の四天王の一人、坂田金時となっ たという記憶は僕の中にまったくなかった。 「別の道を行った金太郎?」  僕はため息になる。はぁー。  織田信長の子孫だって、フィギュアスケートで 氷の上を滑っては転んでる。  漫画一休さんの新衛門さんの子孫だって、格闘 家で超たらこ唇。 「お笑いか」  僕は一人前に寂しかったりする。  帰宅しては洗濯物を一緒に取り入れる。  しーちゃんとお風呂に入る。
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