第八夜 二つのインディゴブルー

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 * * * *  暖かみある色合いの石畳。  歩幅を合わせた二人が練り歩く。  アスティスの手は左手に洋服の紙袋を、右手はしっかりとティルアの手を引いて。  表情はどこかぎこちなく、無言のまま。  形式だけで繋がれた手と手からは互いの熱が伝わってくる。  それでもティルアは繋いだ手の温かさを感じ始めていた。  アスティスの足が止まる。  視線を俯きかげんに、繋いだ手についてきていたティルアは視線を上にする。  その店は古物商だった。  ショーケースに並んだ貴金属類の売り物の数々。  待ち人を迎えるかのように、ルビーの指輪が受ける陽射しに合わせてキラリと光る。  ティルアが二度目に目にする指輪の重さとはまるで価値と重さが違っていた。  しかし、驚くべきはそれだけではなかった。 「このペンダントは――!?」  アスティスのインディゴブルーが驚愕に染まる。  ティルアもつられて見て、気付く。  忘れもしない、あの時の――  ラサヴェルが母親の形見だと言ったプラチナチェーンのペンダント。  ペンダントトップに輝く蒼い瞳と同じブルーの内側には、特殊な文字加工が施されている。 「セルエリア王家の紋章――、なぜこんな所に……!?」 「えっ!?」  ティルアの心がざわりと大きく揺れる。 『家もある。家族もいる。  ただ家族が僕を受け入れようとしないだけで……』  もしかして、もしかしたら。  ティルアはざわつく心を抑え付けるように、ゆっくりと、ゆっくりとアスティスへと顔を上げる。 「アスティス……様。  一つ、お聞きします。  ラサヴェル様と貴方は……もしかして」  ティルアの緊迫した声に気付いたアスティスがああ、と一つ言葉を発する。 「そうか、ラサヴェルは君にまだ話していなかったのか。  そう、ラサヴェルはセルエリアの王子。本来ならば、俺の兄としてこの国を治める立場に就いていたはずの――」  悲しみに顔を伏せるラサヴェルのことを思い出し、ティルアはゆらゆらと瞳を揺らした。 「……ラサヴェルは俺の幼馴染みであるミアンヌと結託し、俺の母上を脅した。  母上は過去に起こした事件のことを明るみにすることを嫌っている……それを利用してね。  俺と君の婚約破棄はそういった経緯があって出されたものだった」 「――――!」
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