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「ラサヴェルは俺と母上を疎ましく思っている。
過去の罪を明るみにすることで俺を王座から引きずり下ろそうとしている。
俺達親子に復讐しようとしているんだ。
君はそれに気付いて、ラサヴェルの凶行を止めようと単身彼の元へ訪れた。
覚えていないかもしれないけれど、そこで君はラサヴェルに……襲われ――」
反射的に手を振り払っていた。
心の中はぐちゃぐちゃになっていた。
「……違う……違うっ!
ラサヴェル様は、ラサヴェル様は――!!」
自分のこれからの行き先も本来あったはずの立ち位置も、何もかも全てが分からなくなってしまっていた。
「あなたに……あなたにラサヴェル様の気持ちなんて分からない……!
家もある、家族もいる!
なのに、なのに彼は……ずっと、ずっと……っ」
ただラサヴェルの心の内を見た気がして、ティルアは叫ばずにはいられなかった。
涙が石畳を濡らしていく。
「アスティス様……ごめんなさい。
やっぱり私はその指輪、受け取れません。
私は、私だけは彼を一人ぼっちにするわけにはいきません……!」
「ティルア……!」
「た……楽しかったです。
でも……、でも今日はもう帰ります」
ティルアは駆け出した。
切なさに、苦しみに心が悲鳴を上げる。
「ふっ、ふ、う、ううううっ!」
はらはらと涙が横に流れていく。
それでも立ち止まることはしなかった。
街中をどう走ったのか分からない。
足は自然と大聖堂へと向かっていた。
心は彼に、ラサヴェルに逢いたかった。
昨晩のことを思い出した。
彼は懺悔するようにティルアを抱き締めた。
弱々しい腕で、振りほどける力で。
『いいんです、緋薔薇。
そこは僕に非がありますから』
『ふふ、可愛い。
離せなく……なるじゃないか』
「……………っ」
大聖堂が見えてくる。
定刻の祈りが行われていない間は自由参拝の時間。
その時間はラサヴェルはある程度自由が確立されていると言っていた。
大聖堂へ飛び込む。
――彼はいない。
すぐにも居住スペースへと足を向ける
。
彼は来賓、個室を与えられている。
彼の部屋へと向かった。
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