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胸のときめきを感じながら、ティルアは大聖堂の出入口である大扉の番(つがい)を外し、ドアを押し開いた。
両開きの扉の中央から少しずつ外の光が舞い込んでくる。
眩しさに目を眩ませたティルアの眼前に、金の光と特徴的な蒼い瞳が現れた。
「手伝おう」
重厚な扉を押すティルアの手から扉が離れ、あっという間に扉が開け放たれた。
ティルアは棒立ちし、光の中から現れた男の姿を目で追っていた。
立ち尽くすティルアを避けるようにして、入り口から信者が中へと詰め掛ける。
それなりに重いそれぞれの扉をストッパーに繋いだ男は仕事をやり遂げると、ティルアの前へと戻ってきた。
紺の外套を身にし、フードがはらりと後方に押しやられ、シャインゴールドの髪が 露わにされる。
ラサヴェルを彫刻の芸術品に例えるなら、彼は絵画の芸術品。
彼が視界の一片に留まるだけで、世界が絵になる。
特別な存在感と王者の気品が全身から漂っている。
――蒼い瞳。
ラサヴェルと同じ瞳のインディゴブルー。
ティルアは思わずその吸い込まれそうな瞳に一瞬にして囚われた。
射し込む陽光の中、彼はにこりと笑う。
「おはよう、ティルア」
二匹の鳩が羽音を立てて地に降り立つ。
「あ、……おはようございます」
ようやく喉の奥から声を絞り出すと、ティルアの心は激しくざわついた。
もうすぐ朝の祈りが始まる。戻らなくては――そうは思うものの、身体はなぜか動かなかった。
入り口付近から微動だにしないティルアの様子を訝しんだラサヴェルが扉前へと近付き、途中で足を止めた。
「もうすぐ朝の祈りが始まりますよ、緋薔薇」
後方から掛けられたラサヴェルの声にティルアはハッと我に返ることができた。
「!! ラサヴェル様……!
あ、私……行かなくちゃ…」
逃げるように踵を返したティルアだったが、すぐにも足は止められた。
手首を掴まれた。
「ティルア……、行かないで。
俺は君に用があってここに来たんだ」
空気に通る美声。
ティルアは振り向く。
「今更、私に……用ですか?
婚約はあなたから解消されたのではないのですか……アスティス王子」
耳に覚えた事実をティルアが口に出すと、アスティスの顔つきからさっと笑みが消える。
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