第八夜 二つのインディゴブルー

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 紺の外套をフードをかぶり直したアスティスが先導するすぐ後ろを、ティルアはゆったりとした歩調で付き従う。  道行く人らがみなティルアの姿をちらちらと覗き見してくる。  身にするドレスは飾り気のない白地のコットンドレス。教会に住まう女性から譲り受けた一般市民向けのドレスだった。  髪も顔にも、特にこれといった注目要素は見られないはずだ。  つい先程、前を行くアスティスがティルアに自分の外套を被せようとしたのだが、ティルアはすぐにもそれを断った。  不思議なことに人々の視線は決して嫌なものではなく、むしろ温かみに満ちたものだった。 「人質立て籠り事件……今や君のことを知らない一般街の住民はいない」 「人質……立て籠り……、そう言えば、貧民街の方も何やらそのようなことを言っていました」  前を行くアスティスは決して先を急ごうとしない。  だからこそティルアはゆっくりとした歩調で歩くことができた。  歩きすがら、所々に立つ触れの看板。  そのどれもが、アスティス王子と隣国の姫との結婚式についてのものだった。  先行くアスティスの横顔がフードの上からちらりと見えた。  看板に目をくれる様子すらない。 「この店に付き合って貰えないか。  服を何着かプレゼントしよう」  連れていかれた場所は、仕立屋。  身体の寸法をくまなく測定され、聞かされた胸のサイズにがっくり肩を落とすと、彼はそんなティルアに向けて、真顔で可愛いと言った。  どんな服が出来上がるのかと思えば、出来上がりは先だと言われ、訝しんでいると、隣に立っていたアスティスが苦笑する。 「測ってすぐに服が仕上がるわけではないんだよ、ティルア」 「えっ、そうなのですか!  同じサイズのものから出して貰えるものだとばかり」 「……世界にたった一着、君のためのオーダーメイドだから。  今日のプレゼントはこっち。  好きなドレスを選んで」  そう言って彼は既製の縫製品が並べられたフロアへとティルアを手招きする。 「うわぁああ……綺麗……!  すごい、キラキラしてる……」  フロアを横切るように伸びる幾つものポールには、様々な色彩と眩いばかりの輝きを灯すドレス達が所狭しと並べられている。  フリルやドレープ、リボンなどをふんだんにあしらった愛らしいものから、シンプルなものまで目移りするほどの品数が取り揃えられていた。  
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