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仕立屋の女店員はアスティスとティルアのやり取りをちらちら見ながらくすくす笑っている。
「な、何を言って……!」
「自分で買えるものを人様に買って貰うなんて、絶対おかしいです!」
「ティルア、そういうのは、男性が女性へのプレゼントとして贈るものであって……」
アスティスの困惑した顔が映る。
ティルアは目を瞬かせ、先程までの余りのギャップに思わずぷっと噴き出した。
「アスティス様、顔、顔!
お顔が崩れて――――……!?」
どくん、と大きな鼓動が鳴り響き、ティルアの頭に軽い頭痛が起こる。
一瞬のことにティルアが顔をしかめ、次に顔を上げた時。
「はい、確かに。
では追って城宛に書面をお送りさせて戴きます」
「あーーっ、酷い、酷いですアスティス様!
私が買おうと……う、うぅ」
ルビーの瞳にぽってり涙を滲ませて、ティルアは恨みがましくアスティスを見上げる。
アスティスはそんなティルアをいとおしげに見つめ、にっこりと笑った。
「くすくす、可愛らしい方ですね、アスティス様」
「これはみっともない所を見せてしまったな……」
「やっぱり、私どもはそうだと思っておりました。
私どもだけではなく、ティルア様をお見掛けした一般街の者達の多くがそう感じているはずです。
……素敵なお式になりますように」
「……ありがとう」
店員とアスティスの会話を聞きもせず、ティルアはぷっくりと頬を膨らませ、ふてくされていた。
受け取ったドレスが入った大きな紙袋を手に、ティルアは勝ち誇った表情で石畳を歩く。
「頼む、それはダメだ、それはダメだティルア。
その袋を俺に渡して……今すぐ!」
「え、何故ですか?
自分の荷物を自分で持つのは当たり前でしょう?
しかも買っていただいたのなら尚更です」
「………安心した。
そういうところは何も変わっていないんだな」
「え?」
アスティスの言葉にティルアは足を止めた。
「……いや、可愛いなって言ったんだ」
「……………いや、違いますよね。
絶対違います―――あっ」
一瞬の隙に高くから伸びてきた手がティルアから紙袋を奪ってしまった。
「これは俺が持つ。
男はそのためにいるようなものだ。
俺を頼ってくれた方が嬉しい」
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