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「んじゃ、行きますか。適当にブラーっと」
「おーう」
バギーとハーレーのエンジンが同時にかかり、マフラーから排気ガスが噴出する。
そして二つの車体が走り出した。
景色が次々と後ろに流れ、止まった空気が風に変わって心地よく頬を撫でる。
「いやー久し振りだなレンタバギー。こいつを全力でぶっ飛ばした日を思い出すよ」
「なんだ、見かけによらずスピード狂か?」
「まさか。俺は安全運転派だよ」
力強いエンジン音を周囲に響かせながら、バギーとバイクが路面を駆ける。
運転できる者がほぼいない二台が並んで走っているのは相当珍しい光景なので、道行く者誰もが振り返ってこちらを見る。
しかし。
(うーん………)
シノンは、何とも言えない退屈を感じていた。
運転している二人はいいが、自分は乗っているだけなのだ。
何ていうのかな。
どうせならこんな公道を走るような感じじゃなくて、もっと、こう…………
「キリトよ」
「何だよ、スパーダ」
「―――レースしねーか?どうせなら」
「………。何でまた」
「いやなに」
スパーダがシノンを見て、にやああ、と好戦的な笑みを浮かべる。
「隣のオヒメサマがなぁ、退屈そうなツラしちまってんだよ。もっと飛ばせ、もっと飛ばせってよぉ」
「………誰がお姫様よ」
ぷい、と顔を背けるシノン。
表情に出ていたのもそうだが、それを思いきり指摘されるのが気に食わなかったからだ。
お姫様と呼ばれたのが恥ずかしかったからではない。
絶対に。
「はは、スピード狂はお前だろ?」
「否定はしねーな。どうよ、シノンさん」
「好きにすれば」
その言葉で、バギーとハーレーが同時に停車した。
ドッドッドッ、と二台の機関部が、スピードを渇望するように鼓動を刻む。
ニヤケてんぜとスパーダに指摘され、シノンはキッと彼を睨んだ。
スパーダはマップを呼び出し、ペイントツールでざっと赤線を引く。
「コースはこれ。この区画を一周でどうだ」
「いいぜ。カウントダウンは……シノン、頼めるか?」
「オッケー。ただ、一つ注文いい?」
「「?」」
「一周じゃ足りない。……三周で」
ふはっ、とスパーダが笑いをこぼす。
キリトも苦笑しながら了解と言った。
そして。
「三」
「とんだツーリングだぜ」
「全くだ」
「ニ」
「ま、こーゆーのも悪くねえ」
「まーな」
「一」
「……負けねーぜ?」
「……こっちこそ」
「――――ゴー!!」
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