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鉄の心臓が猛々しく咆哮を上げる。 急回転したタイヤが一瞬路面を滑り、そして両者がロケットスタート。 爆発的な加速に、シノンの身体が座席に押し付けられた。 「きゃーっ!!」 シノンの悲鳴が楽しそうに響くが、エンジン音でかき消されて二人の耳には届かない。 車など来ないと車道を歩いている歩行者達が、大慌てで脇へと逸れていく。 さっきとは段違いのスピードで流れ去っていく景色に爽快感を感じつつ、すぐ横を並走しているスパーダを見ると、彼は若干眉根を寄せていた。 その理由はすぐにわかった。 じわじわとキリトに離されているのだ。 バギーのスピードは最高速。彼もまたマックスを出しているのだろう。 しかし、わずかとはいえこの速度の差は…… (なるほど。装甲の分か) 戦地仕様の彼のハーレーは、要所要所に装甲が取り付けられている。 この重さが速度に影響しているらしい。 そして間もなく第一コーナー。 キリトが安全に曲がるためにやや速度を落とした時、シノンはスパーダに挑発をかけてみた。 「どうしたの!?ついてこれない!?」 すると。 「んなワケあるかバーカ!!!」 コーナーを曲がるバギーの内側。 彼はハーレーの大きな車体を、強引にそこにねじ込んだ。 一歩間違えれば接触事故だというのに、一切臆する様子はない。 ギャギャ!!とタイヤの接地面から悲鳴を鳴らし、さらにインコースを曲がったハーレーがバギーからリードを奪った。 「はっは!!カーブでビビってちゃ話になんねーぜ!?突っ込まなきゃダメなんだよハニー!!」 「ハニーとか言われてるよ!?根性出しなさいキリトターボよターボ!!」 「両方ともムチャいうなよもー!!」 騒がしく叫びつつ、二つの鉄塊が駆け抜けていく。 適当に決めたられたこのコースは、形としては長方形に近い。 つまり、長い直進が二つある。 スパーダはバギーとの速度差はあれどそれをコーナーで埋めて両者かなりのデッドヒートとなっていたが、この二つの直進でだんだんと差をつけられていった。 最終ラップ。 両者の距離三メートル。 優勢、キリト。 「これは、勝った、かな………!?」 口元に笑みを浮かべつつキリトが言う。 最終ラップも後半にさしかかり、残すコーナーはあと一つ。 スパーダの方がコーナリングは上とはいえ、キリトの優勢は変わらないだろう。 だけど。 (だけど………) 助手席のシノンは思う。 なぜだろう。 どこかにスパーダの逆転勝利を望んでいる自分がいる。
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