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スコープ越しに見たあの姿をもう一度見たいと思う自分がいる。 だけどもう、決着は着いたに等しい。 間もなく最終コーナー。 まだ少し諦めきれず、シノンは振り返り後ろを走るスパーダを見る。 「え…………?」 ぞくり、と背中にナニかが走った。 シノンが目の当たりにしたのは―――乱暴な色に彩られていく、スパーダの満面の笑みだった。 次の瞬間。 ヴォン!!と爆音を立て、彼がさらにアクセルを開いた。 「うそ……あいつ、本気じゃなかったの!?」 「え―――――」 思わず口を突いて出たシノンの叫びに、キリトが反応した直後。 矢のような勢いで加速したスパーダが、一気にバギーと距離を詰めてきた。 すでにコーナーを曲がりかけていたバギーのすぐ内側を、スパーダが突き刺すように突っ込んできた。 その速度のまま最短距離を曲がった彼が、一瞬だけ助手席のシノンと並んだ。 疾風と化したその姿。 近くに見えたのは一瞬だけだが、その一瞬………シノンは間違いなく彼に見惚れた。 後の結果は語るまでもない。 最後の直進で彼はバギーとの明確な速度差を見せつけ、そして―――ゴールラインを突っ切った。 耳をつんざくブレーキ音と共に、車体を横にしつつ20メートルほど路面を滑って彼はハーレーを停車させた。 路面のブレーキ跡から、焦げた煙のエフェクトが立ち上る。 「ふぅー…………っ」 長く息を吐いて緊張を外に逃がした彼はハーレーを手で押して、ゴールして低速で向かってくるバギーに近付いた。 「やるじゃねーか。だが……悪しからず、俺の勝ちだ」 「な、何が『競争にはあんま興味ねーや』だよ。勝つ気マンマンだったじゃないか………」 「負けるのはヤなんだよ」 「ねえ、あれって……」 「最後のBダッシュの事か?」 びーだっしゅ、という聞き慣れない言葉が来たが、ダッシュとある所から察するに加速とかそんな意味だろう。 とりあえず頷いたシノンだが、その勘は当たっていたらしい。 「そのバギー乗った事あるけど、そいつマックス140キロだろ?こいつマックス201キロだぜ」 「じゃあ何で」 「最初の二周でどこで加速すりゃいいかとか色々考えてたんだよ。前にいるあんた達を観察してさ」 それは………。 なんという勝利への戦略か。 バカみたいな言動をするかと思えば、勝負には全力を尽くす。 なのに競争にはあまり興味がないときた。 彼は一体…… 「あとシノンさん、ちょっと俺に見惚れてたよな。
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