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まあ、かっこよかったよ。少しは。
そう言おうと口を動かしかけ、やっぱりやめた。
やめた理由は自分でも定かではない。
その後しばらく、シノンとスパーダは何となく無言だった。
<6>
「そういえば何となくついてきたけど、どこか行きたい場所でもあるの?」
「場所っつーのもアレだけどな。なんつーか、敵が潜んでそうなとこ」
「敵、ってプレイヤーのこと?」
「まーな」
草木もまばらな荒野を走るバイク。
シノンとスパーダは、その上で適当にだべっていた。
彼の口振りから考えるに、とりあえずの目的地はこの先の市街地跡だろうか。
「俺ってPK(プレイヤーキル)派だからな。モンスター倒すよりはだいぶ儲けはいいよ。………思えばこのゲーム、モンスターの存在蔑ろにされすぎじゃね?」
「確かに……。で、それで高価なバイクを買えたってわけだ」
「実を言うとコイツそんな高くねーんだぜ。いや、まぁ高いんだけど」
「と言うと」
「今の時代電動バイクばっかだろ?それと同じタイプの奴はアホみてーに高いけど、コイツ旧型だから安いんだよ。なんせ乗る技術を持った奴がいないんだから」
イコール俺ウッハウハ、と馬鹿みたいな事を言う彼。
(なるほど。あの噂はそういう訳か)
戦場を求めさまようライダー。
どうやらその実態は、彼の小遣い稼ぎであったらしい。
何とも豪勢な尾ヒレである。
………おっと、いけない。
本来の目的を忘れるところだった。
彼の情報を集めなければ。
フィールドにいる今は、最も重要な事を知る最大のチャンスだ。
すなわち、戦力。
彼の戦闘スタイル、そこから推測されるパラメーターを分析するのだ。
使用する武器に関しては、すでにあの時確認しているので問題ない。
「しかし悪いな、シノンさん。流行りの音楽でも流したいとこなんだが、生憎オーディオなんてオプションパーツが無くてな。だから俺のハミングで我慢してくれ」
「いやいい。凄くいらない」
「フフフフンフン♪フンフフフンフン♪フンフフンフン♪フンフフンフン♪」
「予防線を力技で突破しないで!!」
ああもう、調子が狂う。
早いとこ敵とやらが現れてくれないだろうか………、あれ?
「スパーダ」
「うん?」
シノンはスパーダの腰を指差した。
そこには、シノンの記憶とは違うものがあった。
「あんた、ヴェクターは?」
腰にあったのは武骨で大きなハンドガン。
斬新なデザインの、高性能なあのサブマシンガンではなかった。
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