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この位置から観察する事は無理。 そう判断したシノンは、バイクの後ろから飛び出した。赤いラインがいくつかぶつかったが何とか回避し、手近な廃墟の中に駆け込む。 その二階に駆け上がると、窓にあたる穴からマシンガンを連射しているプレイヤーがいた。 銃撃の音で、自分には気付いていない。 (そこ邪魔!!) シノンは素早くヘカートを構えてスコープを覗き、そして引き金を引いた。 精密な狙いもくそもないが、命中率に関するスキルを取りまくっている上にこの近距離。逆に外しようもない。 轟音と共に放たれた50BMG弾が、そのプレイヤーを壁ごとポリゴンに分解した。 「不意討ちでごめんね。でも狙撃手の本分ってことで」 小さく謝って、急いでその穴から外を覗く。 スパーダの姿はすぐに見つかった。 けれど。 「う……わ………っ」 それを表現する言葉は、すぐには見つからなかった。 あちこちから放たれる弾丸と赤いライン。 その真ん中に、彼は吹き荒れていた。 ……絶対に、目を離しちゃいけない。 シノンは唾を飲み込み、食い入るようにその光景に見入った。 スパーダの正面にある、三人のプレイヤーが作るマシンガンの銃列。 その掃射に対して、あろう事か真正面から彼は突っ込んでいく。 無数の銃弾と弾道予測ラインを横にステップして、屈んで、小さくジャンプしてそれらをことごとく掻い潜るその様は『走る』というか『進む』といった感じだが、その速度は緩まない。 「く、この野郎!!」 一人のプレイヤーがそう毒づいた瞬間、三人の弾道が変わった。 スパーダという『点』を狙う連射から、スパーダがいる『面』を狙う弾幕へと。 「っとぉ!!」 しかしそれを一瞬早く予見した彼が、右ナナメ前に向かって大きく跳んだ。 直後の弾幕を悠々と飛び越し、廃墟の壁に『着地』する。 一瞬。 突然の立体的な動きで三人の視界から外れたその一瞬で、スパーダが腰のハンドガン二挺を抜いた。 その武骨なフォルムが明らかになってようやく、シノンはその銃が何であるかがわかった。 「《デザートイーグル》!!」 『ハンドキャノン』の異名をとる、市販されている拳銃の中で最強クラスのバケモノ銃。 一度画像で見て、誰が使うのコレと思ったのを覚えている。 「んなっ!?」 刹那の時が過ぎ、三人のプレイヤーが慌ててスパーダの姿を捉えた。 その時には、もう遅かった。 ドゴン!!!! 放たれた二つの破壊の塊が、三人をまとめて貫いた。
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