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「ありがとうシノンさん。今のツッコんでくれなかったら俺死にたくなってた」 「だったら何でそんなボケと呼べるのかすら微妙なものを……」 そして周囲のドロップ品を一通り収穫し終えたスパーダは、ウィンドウを呼び出して何やら操作し始めた。 そこでシノンの頭に、ふと小さな疑問が生まれた。 「あんたさっきブツブツ銃の名前言ってたけど、なんかずいぶん詳しかったよね。私もベテランだけど、知らないやつ結構あったよ」 「あぁ、GGO日本発売当初からの古参だし。俺」 超ベテランだった。 シノンは彼の実力が何に由来しているものなのかに気付くと同時に、なぜか微妙に背筋を伸ばしてしまった。 なんだろう、この、学校の教壇で先生の前に立ってるような気分。 「あ、シノンさん。トレード欄出して」 「あ。あ、はい」 いきなり敬語で返事してきたシノンに変な目を向けるスパーダだが、シノンがトレード欄を出したのを確認すると、また自分のウィンドウを操作した。 すると。 「え?」 がしゃん、という効果音と共に、自分のトレード欄に複数の銃器とクレジットが格納された。 戸惑うシノンをよそに、スパーダはちゃっちゃと了承ボタンを押してトレードを終わらせてしまった。 自分は何も出していない。 つまりトレードではなく、彼からの贈り物になってしまっている。 そしてストレージ内に収められたそれらを確認すると、それらはさっきスパーダが回収していた戦利品の一部だった。 「ねえ、これって……」 「そっちの分け前。半々で」 ……………。 シノンはわずかに目を見開いてスパーダを見る。 当の彼は『それがどうかした?』的な顔をしているが、実際自分は彼に圧倒されてほぼいないようなものだったのに。 「……そっか。ありがと」 「? おう。んじゃそろそろ帰るか。さすがにまた敵を探して戦う気力ねーや」 そう言ってバイクに向けて歩くスパーダ。 本来ここは受け取らないのが筋なのだろうが、なぜかそれは彼に対して失礼な気がした。 シノンは前を歩く彼の背中を見る。 その体格よりも、それは何だか大きく見えた。 (さっきまで、ただのバカと思ってたけど) それは大きな思い違いだったのかも……。 すると、スパーダがふいに自分に振り返ってこう言った。 「お礼はにっこり笑顔でほっぺにキスでよろしく」 「訴えるよ。GM(ゲームマスター)に」 びっくりするくらい冷たい声が出た。 スパーダが物凄い勢いで土下座した。
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