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「―――――――――ッッッ!!!」 反射というか、ほとんど衝動と言ってもよかった。 彼の言葉に間髪入れずに、シノンが右拳をスパーダの脇腹にぶち込んだ。 「ぶんどらっふぉ!?」 とんでもない悲鳴を上げつつ、スパーダの身体が揺れる。 一瞬バランスを失ったバイクが大きく揺れ、シノンは振り落とされないように慌てて彼の肩を掴む。 そしてあわや転倒という所で、スパーダが危うくバイクの制御を取り戻した。 「え……えぇ……?何。今のはマジで何?」 「うっさい!!今こっち見ないで!!」 「はい」 凄まじい圧力に気圧されて、スパーダがちょっと敬語になった。 今の顔を見られるのは防いだけど、今度は自分が落ち着かなくてはならない。 とりあえずこの顔の色を元に戻せるような、そんな話題は……… 「………あんた、装備とか見た感じAGI(スピード)型のビルドだったけど。合ってる?」 自分の本来の目的に立ち返ってみた。 おいそれと答えてはくれない質問だが、これで自分の精神が安定すればそれいい。 よかった、のだが。 「いや、STR(パワー)型だよ。俺」 意外な事に、あっさりと答が聞けた。 シノンはちょっと拍子抜けした。 「こんな風に軽装にして、三次元的な機動力を上げたりしてな。スキルだったら『軽業(アクロバット)』とか『抜き撃ち(クイックドロー)』とか、結構パラメータ高いぞ」 「…………へえ……」 このベテランの基準で『結構』とは、どの程度を言うのだろう? スパーダは続ける。 「あとデザートイーグル、あれ結構重いし反動強いんだぜ?STR寄りにしねーと扱いづれーし、それに」 アレが装備できねーし、と小声で続けられたのが聞こえたが、シノンには何の事かよくわからなかった。 多分奥の手か何かだろう。 「じゃあその、あれ………後ろから撃たれたのを避けたのは?」 「ありゃ音でわかった。『索敵(サーチング)』スキルマックスまで鍛えてるのもあるな」 自分のパラメータは生命線と同義であるため、普通おいそれとは他人には教えないものだ。 しかし、この男はいとも簡単にそれらを喋ってしまっている。 強者の余裕―――とは違う。 まるで今の状況を認識していないような。 というか。 (まさか………今自分が探りを入れられてるって事に気付いてないの?) シノンがそう考えている間も彼は、拳銃は囮で本命はナイフの一撃だ、と自分の戦闘スタイルを滔々と語っている。 自分の生命線を、晒している。
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