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本日ハ晴天ナリ。 朝田詩乃は窓際の机に頬杖を突きながら、そんなどこかで聞いたような、だけどどこで聞いたのか皆目見当もつかないフレーズを頭の中で呟いてみた。 ここ最近は本当に天気……というか気候がよく、ぽかぽかと太陽が照っているけれどもしかし暑くはない、という多分だいたいの生物にとって理想的な環境なんじゃないかと思えてくるほどだ。 そのせいか最近外に出て歩いている人をよく見るし、自分も家に帰るのにわざと遠回りしてちょっとした散歩を楽しむ時がある。 ふと窓から空を見ると、まっさらだと思っていた水色のキャンパスにいつの間にやら白いアクセントが加わっていた。 遠くの方にあった小さめの雲が、風に流されてここまで運ばれてきたらしい。 どうやら風の速度はかなり速いらしく、その雲は結構な速度で空を流れていっている。 「………………」 その気ままそうな雲からか、その吹き抜けているらしい風からか。 どちらが元かはわからないけれど、その時、ふと彼を思い出した。 目線を机に戻し、英文が書き込まれているノートの余白部分に、また何となくマフラーを巻いた彼の横顔をシャープペンシルで描いていた時だった。 「では朝田さん、読んでみて下さい」 いきなりおばさん先生にそう振られ、びっくりしてイスから小さく飛び上がった。 「え、あ……ええと………」 ようやく意識が我に帰ったらしい詩乃が、あたふたと教科書に目を戻す。 ………あれ、どこまで進んだっけ? 今の今まで完全に上の空だったので置いてけぼりを食ってしまい、にっちもさっちも行かなくなってしまった。 しかし、狼狽える詩乃の様子を見てそれを察したのだろうか。 「(第五段落の三行目から)」 ボソッ、と隣の席の女の子が救いの手を差し伸べてくれた。 心の中で感謝の言葉を述べつつ、詩乃はその手を全力で掴んだ。 ……………あの野郎。 八つ当たり以外の何物でもない悪態を彼にぶつけつつ、自分へのクスクス笑いがいくつか発生してしまった中で、何とか滞り無く指示された箇所の英文を読み上げていく。 とある高等学校の四時限目。 朝田詩乃が英語の授業中に見舞われた、静かなピンチの一部始終である。 <2> 「もー。朝田さん、ぼーっとしてちゃだめだよー」 「そうそう。あの先生厳しいの知ってるでしょ?」 「わかってるよ」 件の授業が終わり、昼食の時間。 詩乃は友達三人とお弁当をつつきながら唇を尖らせた。
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